ちゃんと知っておきたい放射線のこと

福島第一原子力発電所の写真

放射線は短時間に大量に浴びると健康被害をもたらします。
しかし、人は生きていく中で自然に放射線を浴びているほか、放射線は工業や農業、医療にも活用されています。
そして、放射線を知ることは、福島の現状を正しく知ることにもつながるのです。

放射線とは?

放射線とは、特定の物質が出す高エネルギーの粒子や、空間を伝わる波(電磁波)のことです。

地球や宇宙にあるあらゆる物質を作っているのは、原子です。原子は原子核とその周りをまわる電子で構成されています。

原子には、地球や宇宙の年齢程度の時間では変化しない「安定した原子」と、高いエネルギーを持つ「不安定な原子」があります。「不安定な原子」は安定しようとして原子核を変化させ、その際に高エネルギーの粒子や電磁波を放出します。これが「放射線」になります。ちゃんと知っておきたいトリチウムのことでも説明しています。

放射線は物質を通り抜ける力(透過力)があり、その力は種類によって異なります。例えば、力が弱く紙で止まる放射線をアルファ(α)線、薄い金属板で止まるのをベータ(β)線、鉛や厚い鉄の板で弱まるものをガンマ(γ)線、エックス(X)線とそれぞれ呼びます。

放射線を出す物質が「放射性物質」、どのくらいの量の放射線を出すかという放射性物質の能力が「放射能」です。

放射能は時間の経過で弱まり、半分に減るまでにかかる時間を「半減期」と呼びます。具体的に紹介すると、ヨウ素131は8日しかかかりませんが、ウラン238は45億年もかかります。ALPS処理水に含まれるトリチウムは12.3年です。

放射能と放射線の単位
放射能の放射線の単位の図

ベクレル(Bq)は放射線を出す側の単位で、放射性物質の量や放射能の強さを表します。ある物質を調べた際のベクレル値が大きいほど、多くの放射線が出ていることになります。

シーベルト(Sv)は放射線を受ける人体側の単位で、値が大きいほど人体への影響も増えます。このほか、放射線が物質や私たちの体の組織に与えたエネルギーの量を表すグレイ(Gy)という単位があります。

放射性物質を電球に例えると、ベクレルは光を出す能力(単位:ワット)、シーベルトは光の明るさ(単位:ルクス)に相当します。

放射線の様々な性質は私たちの身近な暮らしに役立っています。透過性を利用してバッグや靴などの出荷前検査、空港での手荷物検査で使われているほか、自動車のタイヤをはじめとする工業製品の耐久性、耐熱性、強度などを放射線の照射で高めています。農業では病気に強い梨や倒れにくく収穫量の多い稲といった品種改良などに活用されてきました。医療では、細胞致死作用を用いたがんの放射線治療が行われています。

参照元

  • 一般社団法人日本原子力文化財団 原子力総合パンフレット(2021年版) 3章 放射線と放射線防護

放射線が
人体に与える影響は?

放射線を受ける量と時間によって、健康に与える影響は異なります。

私たちは日常生活の中で放射線に接しています。宇宙や大地、空気、食物などからの放射線を「自然放射線」といい、日本では1人あたり平均で年間約2.1ミリシーベルトとされています。CTでの検査やがん治療といった医療にも放射線が用いられています。
比較的短時間で100~200ミリシーベルト以上の線量を受けると不妊や脱毛、白血病、がんなどのリスクが高まることが科学的に証明されています。がんの場合、放射線によって細胞のDNAを傷付けられ、それが十分に修復されないうちに細胞が生き続け、さらに何段階にもわたる変異が重なることで細胞ががん化するとされます。

もっとも、私たちの日常生活にもがんを引き起こすリスクがあります。国立がん研究センターによると、がんのリスクを放射線量と生活習慣で比較した場合、野菜不足は100~200ミリシーベルト、肥満は200~500ミリシーベルト、毎日3合以上の大量飲酒や喫煙は1000~2000ミリシーベルトに相当します。

がんになるリスクとその要因
がんになるリスクとその要因の図

参照元

  • 一般社団法人日本原子力文化財団 原子力総合パンフレット(2021年版) 3章 放射線と放射線防護
  • 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」 被ばく線量の比較(早見図)/ がんのリスク(放射線)/ がんのリスク(生活習慣)

福島第一原発事故の
影響は?

福島第一原発事故による健康への具体的な影響は、現在のところ証明されていません。

国際的な専門家集団の国連科学委員会(UNSCEAR)は福島第一原発事故について、福島県に住む成人が事故後1年間に受けた放射線の推計量は約1~10ミリシーベルト(特に放射線の影響を受けやすい1歳児はその約2倍)としました。甲状腺がんについては「多数発生すると考える必要はない」と評価しています。世界保健機関(WHO)の健康評価でも、がんが増加する可能性は低いとしています。

放射線による健康被害が懸念された事故として1986年のチョルノービリ原発事故があります。原子炉そのものが爆発し、炉心の黒鉛が燃えたことで長期間、多量の放射性物質が拡散しました。

一方、福島の事故は水蒸気爆発で建屋が破壊されたものの、核燃料は格納容器内に残り、気体状の放射性物質が大気に放出されました。健康影響に関連するヨウ素やセシウムなどの放出量はチョルノービリの10~40%程度、プルトニウムは0.02~0.1%程度と試算されます。

厚生労働省は福島の事故後、食品の安心・安全を確保するための基準を設けました。例えば、1kgあたりの放射性セシウムについて、飲料水は10ベクレル、乳児用食品と牛乳は50ベクレル、一般食品は100ベクレルとしています。同じ食品のカテゴリーを海外と比較すると、EU(欧州連合)は400~1250ベクレル、米国は全て1200ベクレルであり、日本は非常に厳しい基準となっています。

福島県を含む関係都県はこの基準に基づく食品検査を実施しています。福島県で基準値を超えた「農産物等」は、事故からそれほど時間がたっていない2013年度で検査件数の1.80%、2022年度にはわずか0.01%(1万1208件中の1件)でした。基準を超えた品目は、産地ごとに国の出荷制限の指示や県の自粛要請が出されます。このため国内外に流通することはありません。

食品1kgあたりの
放射性セシウムの基準値
食品1kgあたりの放射性セシウムの基準値の図

参照元

  • 一般社団法人日本原子力文化財団 原子力総合パンフレット(2021年版) 6章 福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた取り組み 原子力総合パンフレット(2021年版) 3章 放射線と放射線防護
  • 復興庁「Fukushima Updates」 FAQ 福島第一原発について
  • 福島県「ふくしま復興情報ポータルサイト」 農産物等の放射性物質モニタリングQ&A

福島県の放射線は
今どうなの?

福島県内の大気中の放射線量は現在、世界の主要都市とほぼ同水準になっています。

県内の線量は2022年9月平均で福島市が0.12マイクロシーベルト(マイクロはミリの1000分の1)、いわき市が0.06マイクロシーベルトなどとなっています。海外の都市では、ソウルが0.12マイクロシーベルト、北京が0.07マイクロシーベルト(ともに2019年9月24日)、ニューヨークが0.05マイクロシーベルト(2019年1月18日)、ロンドンが0.11マイクロシーベルト(2018年1月24日)です。

福島県と世界の
主要都市の空間線量
福島県と世界の主要都市の空間線量の図
避難指示区域の概念図

福島第一原発事故に伴う放射性物質の放出・拡散から住民の危険を回避するため、国は避難指示を出しました。事故の深刻化に伴い避難指示の対象区域は拡大され、事故翌月の2011年4月の段階では、原発から半径20km圏内は例外を除いて立ち入り禁止とする「警戒区域」、原発から20km圏外で事故後1年間に身体が受ける線量の合計(積算線量)が20ミリシーベルトになりそうな区域を「計画的避難区域」とし、住民に別の場所に避難するよう求めました。

その後、住民の帰還に向け、放射線量の状況に応じて避難区域は、立ち入りが柔軟に認められるようになった「避難指示解除準備区域」、一時帰宅などができるようになった「居住制限区域」、引き続き避難の徹底を求める「帰還困難区域」に見直されました。除染やインフラ、生活環境の整備の進展に合わせて住民が帰れる区域は増えました。

2023年5月1日時点で、避難指示解除準備区域や居住制限区域ではすべて解除され、7市町村の一部で帰還困難区域が設定されるのみとなっています。

参照元

  • 福島県環境放射線モニタリング広報誌「ふくモニ」
  • 福島県「ふくしま復興情報ポータルサイト」 避難区域の変遷について-解説-