ちゃんと知っておきたいALPS処理水のこと

福島の海の写真

2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年以上たちました。その間に原発内の水を浄化してできた「ALPS処理水」は、海に放出して処分されることとなっています。不安を抱く人もいますが、その前にALPS処理水とは何か、安全性はどうなのか、なぜ海洋放出するのか、まずは正しく知ることが大切です。

ALPS処理水とは?

ALPS処理水は、福島第一原発の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。ALPS処理水と汚染水は混同されることもありますが、全く異なります。

福島第一原発では原子炉の内部に残る、溶けて固まった燃料(燃料デブリ)を冷却するために水をかけ続けているほか、雨水や地下水も原子炉建屋内に流入しています。これらの水は高い濃度の放射性物質を含んでおり、「汚染水」と呼ばれています。

発生した汚染水は、多核種除去設備(ALPS=Advanced Liquid Processing System、読み方は「アルプス」)という設備などで浄化します。処理方法は、放射性物質を薬液で沈めたり、吸着剤で吸着させたりする仕組みで、トリチウム以外の62種類の放射性物質を取り除き、原発敷地内のタンクに保管します。

タンクにはトリチウム以外の放射性物質が海に放出できる国の基準を満たしていない水も含まれるため、再度ALPSを使った浄化処理、つまり「二次処理」がおこなわれます。これらのプロセスを経て汚染水は「ALPS処理水」となるのです。取り除けないトリチウムの性質や安全性はちゃんと知っておきたいトリチウムのことで詳しく説明しています。

ALPSの仕組み
ALPSの仕組み図

参照元

  • 経済産業省「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」 ALPS処理水って何?本当に安全なの?
  • 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」 「ALPS処理水」とは~汚染水の浄化処理~
  • 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ 「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分②~「二次処理」と処理水が含む「そのほかの核種」とは?

ALPS処理水の安全性は?

ALPS処理水は、トリチウムについても国や世界保健機関(WHO)の安全基準を十分に満たすよう水で大幅に薄めてから海洋放出します。このため、環境や人体への影響は考えられません。

放出の際には、ALPS処理水にその100倍以上の量の海水を混ぜて、トリチウムの濃度を1リットルあたり1500ベクレル(放射能の量を表す単位)未満に薄めます。これは、稼働中の原子力発電所等に対しても適用されているトリチウムの規制基準(6万ベクレル)の40分の1、WHOの飲料水基準(1万ベクレル)の7分の1の水準です。なお、ALPS処理水を薄めることでトリチウム以外の放射性物質も基準上限の100分の1未満まで減らすことになります。

トリチウム濃度の比較

海洋放出する際のトリチウム濃度は、国の安全基準やWHOの飲料水基準を大きく下回ります

トリチウム濃度の比較図

さらに、放出した水が取水した海水に再循環することを抑制するため、約1㎞の海底トンネルを経由して沖合に放出します。放出直後から濃度はさらに低くなり、陸から2~3km以上離れた海域のトリチウム濃度は、通常の海水とほぼ同じになります。以上のプロセスを経ているため、近海で取れた魚介類が危険というのは誤解で、安全性に問題はありません。

ALPS処理水を海洋放出する工程

ALPS処理水は海水で大幅に希釈してから、約1kmの海底トンネルを経由して沖合に放出します

ALPS処理水を海洋放出する工程の図

参照元

  • 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」 タンクに保管されている水の処理方法 / 「ALPS処理水」の海洋放出に関する放射線の影響評価
  • 東京電力「処理水ポータルサイト」 海域モニタリング

海洋放出する理由は?

ALPS処理水の処分は、福島第一原発の敷地内にあるタンクを減らして廃炉と復興を進めるために必要な作業です。

ALPSなどで浄化された福島第一原発の処理水はこれまで、処分すれば環境や人体に影響をおよぼすのではないかと懸念を持つ人もいることから、タンクに貯蔵されてきました。しかし、その数は現在、約1000基にも達し、原発敷地内のかなり広い敷地を占有する状態となっています。

このままでは、燃料デブリの取り出しや廃棄物の一時保管などに必要な敷地を確保できず、廃炉作業が滞ってしまいます。これ以上タンクを増やし続けることはできない状況なのです。大量のタンクがあるという状態も、風評やリスクをさらに増長させかねません。現状の福島第一原発を長くこのままにすることは、福島の真の復興にはつながりません。

処理水の貯蔵タンクが広がる福島第一原発の写真
処理水の貯蔵タンクが広がる福島第一原発(提供:読売新聞社)

政府は2013年から処理水をどう処分するか専門家や有識者を交えて検討を重ねてきました。過去の実績のほか、設備の取り扱いやモニタリングのやりやすさなどを踏まえ、海洋放出を決めました。

海洋放出は、世界中の数多くの原子力施設でも実施されている方法です。原子力の平和利用を後押しする世界的な組織である国際原子力機関(IAEA)も「国際的な慣行である」との立場で、福島第一原発での海洋放出について「科学的な根拠に基づく」と評価しています。

参照元

  • 経済産業省「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」 なぜALPS処理水を処分しなければならないの?
  • 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ 「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分~ALPS処理水の海洋放出と風評影響への対応 / 「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分②~「二次処理」と処理水が含む「そのほかの核種」とは?

モニタリングの方法は?

ALPS処理水の海洋放出にあたって、関係機関が原発周辺の海水や水産物のモニタリングを実施し、トリチウムや他の放射性物質の濃度を調べ、インターネットで公表しています

海域でのモニタリングのイメージ図

ALPS処理水を海水で希釈したうえで海洋に放出するにあたり、周辺海域のモニタリングで放出水が十分に拡散していないような状況等が確認された場合、放出は速やかに停止されます。判断する指標は「放出停止判断レベル」と言い、東京電力は放水口付近(発電所から3km以内の10地点)では、トリチウム濃度が1リットルあたり700ベクレルに設定しました。これは放出時のトリチウム濃度の上限値である1500ベクレルを基にしており、WHOの飲料水基準(1リットルあたり1万ベクレル)を大きく下回る数値です。

放水口付近の外側(発電所正面の10km四方内の4地点)は、1リットルあたり30ベクレルに設定しています。日本全国の原子力発電所の前面海域におけるトリチウム濃度の最大値(1リットルあたり20ベクレル)をもとに、それを明らかに超過する数値として1.5倍の 1リットルあたり30ベクレルに設定しました。いずれも、対象地点のうち1地点でも指標を超えた場合には、速やかに放出を停止します。

指標(放出停止判断レベル)に達する前の段階において必要な対応を取る値として「指標(調査レベル)」も定めています。「指標(調査レベル)」は、放水口付近(発電所から3km以内 10地点)で1リットルあたり350ベクレル(放出停止判断レベルの1/2)、放水口付近の外側(発電所正面の10km四方内 4地点)で1リットルあたり20ベクレル(放出停止判断レベルの1/2強)とし、それを超える値が検出された場合、速やかに、設備・運転状況に異常のないこと、操作手順に問題がないことを確認するとともに、海水を再採取し、結果に応じて頻度を増やしたモニタリングを実施します。

参照元

  • 環境省「ALPS処理水に係る海域モニタリング情報」
  • 東京電力「処理水ポータルサイト」 海域モニタリング