ちゃんと知っておきたいトリチウムのこと

トリチウムのイメージ写真

ALPS処理水ではトリチウムを取り除くことができず、大量の海水で処理水を薄めて放出します。トリチウムは放射性物質であるため、その聞きなれない言葉も相まって「危ない」というイメージを持つかもしれません。ですが、自然の水にも含まれている私たちの生活に身近な存在なのです。

トリチウムとは?

トリチウムは水素の仲間(同位体という)で、水道水や食べ物、私たちの体の中に普段から存在している放射性物質です。

水素の原子は陽子1個の原子核と電子1個でできています。一方のトリチウムは原子核が陽子1個、中性子2個で構成される「三重水素」と呼ばれ、「原子核が不安定な状態」です。これを解消するために陽子と中性子の個数を変えてバランスを取ろうとします。その際に発生するのが放射線です。これについては、ちゃんと知っておきたい放射線のことで解説しています。

水分子の構造
水分子の構造のイメージイラスト

トリチウムは宇宙から地球へと常に降り注ぐ宇宙線という放射線と地球の大気が交わることで自然発生します。そして、トリチウムは水素の仲間なので、酸素と結びついて水の分子になることがあります。これを「トリチウム水」といいます。水の化学式はH2Oで、2つの水素(原子記号はH)と1つの酸素(原子記号はO)の分子で構成されていますが、トリチウム水の化学式は水素の一つがトリチウム(記号はT)に置き換わったHTOです。

参照元

  • 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ 安全・安心を第一に取り組む、福島の"汚染水"対策 ②「トリチウム」とはいったい何?

トリチウムの性質や
安全性は?

これまでの動物実験や研究から「トリチウムが他の放射性物質に比べて特別に生体影響が大きい」という事実は認められていません。

トリチウムの放射線エネルギーは極めて弱く、空気中を約5㎜しか進めません。また、エックス線や中性子線といった他の放射線は厚みのある物質を貫通するのですが、トリチウムは皮膚どころか紙1枚すら通らないのです。さらに、トリチウム水を摂取した場合、基本的には尿などを通じて体外に排出され体内に蓄積しません。食物連鎖の過程で、ある物質が濃くなる「生物濃縮」も、これまでの研究では確認されていません。

なお、トリチウムは酸素と結びつき、水とほぼ同じ性質の液体として存在しています。そのため、水の中からトリチウムだけを分離することは極めて難しく、現時点でALPS処理水にただちに実用できる技術は確認されていません。

放射線のエネルギー
放射線のエネルギー図

参照元

  • 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ 安全・安心を第一に取り組む、福島の"汚染水"対策②「トリチウム」とはいったい何? / 安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策③トリチウムと「被ばく」を考える
  • 経済産業省「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」 トリチウムって何?

各国で放出される
トリチウム

トリチウムは、世界中の多くの原子力施設から海に放出されていますが、施設周辺からは、トリチウムが原因とされる影響は見つかっていません。

液体に含まれるトリチウムの年間処分量は、フランスのラ・アーグ再処理施設で1京(1兆の1万倍)ベクレル、カナダのダーリントン原発で190兆ベクレル、中国の陽江原発で112兆ベクレル、韓国の古里原発で49兆ベクレル(いずれも2021年)となっています。どの施設も安全基準を守ったうえでトリチウムを処分しています。

福島第一原発の敷地内でタンクに保存されている水は東京ドーム1杯分にあたる約125万トンです。この中に含まれるトリチウム水の量は大さじ1杯分の15グラムですが、年間処分量は22兆ベクレル未満に収めます。これは国内外の原子力関連施設からの放出量と比べても低い水準です。

さらに、トリチウム以外の放射性物質をほぼ取り除いたALPS処理水は海洋への放出前に100倍以上の海水で薄められます。この時点で世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1程度の濃度となり、放出後は海流の影響で海水とまざって、自然の水に含まれるトリチウム濃度に近い水準になります。

世界の原子力関連施設のトリチウム年間処分量(液体)

世界各国の原子力関連施設は、安全基準を守った上でトリチウムを処分しています。
これらの施設周辺からは、トリチウムが原因とされる影響は見つかっていません。

世界の原子力関連施設のトリチウム年間処分量の図

参照元

  • 経済産業省「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」 トリチウムって何?
  • 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ 「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分②~「二次処理」と処理水が含む「そのほかの核種」とは?
  • 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」トリチウムの年間処分量 ~海外との比較~ / 「ALPS処理水」の海洋放出に関する放射線の影響評価