ALPS処理水やトリチウム、放射線に関する
疑問にお答えします。

ALPS処理水について

Q1

ALPS処理水とはどういうものですか。汚染水とは違うのでしょうか。

A
「汚染水」と「ALPS処理水」は異なります。
「汚染水」は、多くの放射性物質を含み、事故後の福島第一原発建屋内で毎日発生しています。「ALPS処理水」は、多核種除去設備(ALPS)などを用いて浄化処理を行うことによってトリチウム以外の放射性物質について、環境放出の際の規制基準を満たすまで浄化した水のことをいいます。
Q2

ALPS処理水は安全なのでしょうか。処理方法と合わせて理解したいです。

A
放射性物質を浄化処理したうえで、さらに海洋放出時に希釈することにより、ALPS処理水は安全基準を十分に満たしています。
タンクに貯蔵されている水が国の規制基準を満たさない場合には、再浄化処理施設でトリチウム以外の放射性物質を徹底的に取り除きます。除去できないトリチウムは海洋への影響を抑えるため、放出時に100倍以上の海水で薄めます。これにより、トリチウム濃度は稼働中の原子力発電所などに適用されている規制基準の40分の1、世界保健機構(WHO)の飲料水基準の7分の1程度にまで下がります。
Q3

ALPS処理水にはトリチウム以外の放射性物質が含まれているのですか。

A
現在、タンクに貯めている水の約7割には、トリチウム以外にも、規制基準以上の放射性物質が残っています。
これは、事故発生からしばらくの間、貯蔵されている水が福島第一原発の敷地外に与える影響を急いで下げるため、処理量を優先して実施したためです。実際に処分を行う際には、これらの放射性物質が規制基準以下になるまで再度浄化処理を実施します。
Q4

なぜALPS処理水を放出する必要があるのですか。

A
ALPS処理水はこれまで敷地内のタンクに貯められてきましたが、近いうちに満杯になると予想されています。
今後、福島第一原発の廃炉作業は、燃料デブリの取り出しなど、重要な作業段階に進んでいく予定で、これらの作業を安全かつ確実に進めていくためには、燃料デブリの一時保管設備や、作業に伴い発生する廃棄物の保管施設の建設のため、大きなスペースが必要となります。そのため、すでにタンクが建設されているスペースも含め、敷地を最大限有効活用していく必要があります。
Q5

そもそもALPS処理水が安全ならば貯める必要はないのではないでしょうか。

A
トリチウムは国内外の原子力施設において、規制基準を遵守した上で実際に処分されており、その周辺からトリチウムが原因とされる影響は確認されていません。
福島第一原発に貯蔵されるALPS処理水も、2020年4月に国際原子力機関(IAEA)から出されたレビューにおいては、海洋放出について「技術的に実行可能であり、時間軸の要求も満たす」と評価されています。一方で、処分を行うことにより発生しうる、風評影響などの社会的な影響について検討するため、当面の間敷地内に保管することとしてきました。6年以上にわたる専門家による検討や、4000件を超える書面意見等を踏まえ、海洋放出を行う方針を決定しました。
Q6

ALPS処理水の処理方法として、なぜ海洋放出が選択されたのですか。

A
海洋放出は国内で前例があり、現実的な方法であるためです。
処分方法は、「地層注入」「水素放出」「地下埋設」「水蒸気放出」「海洋放出」の5つが検討されました。「地層注入」「水素放出」「地下埋設」は規制・技術・時間の観点からそれぞれに難しさがある一方、前例のある「水蒸気放出」と「海洋放出」が現実的な選択肢だとされています。このうち、海洋放出は日本での実績があるほか、水蒸気放出に比べて簡易な設備で、放出後に環境影響などについてモニタリングしやすいことから、採用されました。
Q7

海洋放出は日本以外の原子力施設でも行われていますか。

A
トリチウムは国内外の原子力施設でも発生しており、処理のための海洋放出は各国の法律を守ったうえで行われています。
ALPS処理水の海洋放出にあたって、トリチウムの年間処分量は事故前の福島第一原発の放出管理値(22兆ベクレル)を下回る水準とする方針です。カナダのダーリントン原発は2018年に220兆ベクレル、韓国の古里原発は2019年に91兆ベクレル、中国の紅沿河原発は2019年に87兆ベクレルを排出しており、ALPS処理水の処分量は国内外の原子力施設と比べても低い水準です。
Q8

福島第一原子力発電所の敷地外で、ALPS処理水の保管・処分はできないのですか。

A
放射性物質を敷地外に持ち出すことは、リスクのあるエリアの拡大やさらなる負担に繋がることから、望ましくありません。
国のALPS小委員会は、「廃炉・汚染水対策は、継続的なリスク低減活動であり、リスク源となりうる放射性物質を敷地外に持ち出すことは、リスクを広げることになるため、既存の敷地内で廃炉を進めることは基本」としています。さらに、敷地外に新たに敷地を確保してALPS処理水を保管するには、保管施設を設置する自治体の理解を得る必要があるほか、事前調整や認可手続きで「相当な時間」がかかると指摘されています。
Q9

ALPS処理水を放出しても水産物に影響はないのでしょうか。

A
調査の結果、安全上の問題はありません。
放出するALPS処理水のトリチウム濃度は、国の基準やWHOの飲料水基準を十分に満たしています。日常的に近海の魚を多く食べる場合を想定するなど、国際的な方法で海洋放出の人体への影響を調査したところ、日常生活が受けている放射線と比べて約100万分の1から7万分の1と、極めて小さいことが分かっています。さらに、放出前後で定期的にモニタリングを実施し、海や魚類の放射性物質濃度に大きな変化がないかを確認します。
Q10

なぜ海洋トンネルを経由して1km先の沖合に放出するのですか。

A
放出した水の再循環を防止する観点で適しているためです。
沿岸に放出すると、放出したALPS処理水が、希釈用に取水した海水に再循環する可能性があります。そのため、陸上から海底トンネルを通じて1km先に放出することになりました。
Q11

国際原子力機関(IAEA)はどういう組織ですか。

A
原子力分野での協力を進める世界の中心的機関です。
第二次世界大戦後に国連が原子力の国際的な管理について協議した結果、1957年に発足しました。事業の柱は原子力の平和的利用の促進と、軍事目的への転用の防止で、2023年1月現在、176か国が参加しています。人々の健康や生命、財産への危険を最小限に抑えるため、国際的な安全基準、指針を作成し、普及させてきました。
Q12

IAEAが取りまとめたALPS処理水に関する包括報告書はどのような内容でしたか。

A
国際的な安全基準を満たしていると結論づけました。
海洋放出の取り組みや政府などによる関連活動について、「国際安全基準に合致する」としました。そのうえで、安全性に関する懸念に対して「人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」と結論付けています。放出中、放出後も福島第一原発に関して日本に関与し続け、モニタリングデータの提供を含めて国際社会が利用できるデータを公表するとしています。

トリチウムについて

Q1

トリチウムとはどういうものですか。

A
「トリチウム(三重水素)」は水素の仲間です。
「トリチウム」は、宇宙から降りそそいでいる放射線(宇宙線)と大気がまじわることによって常に生成されているため水素の代わりに酸素と結びつき、「水」のかたちで大気中の水蒸気や、海水、水道水や食べ物、そして私たちの体の中にも存在しています。
Q2

トリチウムは放射性物質であり危険ではないのでしょうか。

A
トリチウムから発生する放射線のエネルギーは非常に弱く、空気中を5mmしか進むことが出来ません。皮膚も通過できないため、外部被ばくによる人体への影響はありません。また、体内に入っても水と一緒に最終的に排出されるため、体内で蓄積・濃縮されることはありません。
これまでの動物実験や疫学研究から、「トリチウムが他の放射性物質と比べて、特別に生体影響が大きい」という事実は認められていません。
Q3

トリチウムはなぜ完全に除去できないのでしょうか。

A
水を構成する分子の一つであるためです。
トリチウムは、酸素と結びついて「トリチウム水」のかたちで存在しています。これは、H2Oをはじめとする水分子の仲間(同位体)です。つまり、水とほぼ同じ性質の液体であるため、水の中からトリチウムだけを分離することは極めて難しく、現時点でALPS処理水にただちに実用できる技術は確認されていません。
Q4

トリチウムは魚に濃縮され、魚を食べると危険ではないのでしょうか。

A
トリチウムは、大部分が水の状態で存在し、水と同じように体外へ排出され、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されています。
トリチウム水として体内に入った場合は、新陳代謝により10日程度、たんぱく質などの有機物に結合したトリチウム(有機結合型トリチウム)が体内に入った場合でも、多くは40日程度で、半分が排出され最終的にはすべてが排出されます。

放射線の健康影響について

Q1

UNSCEARはどういう組織なのでしょうか。日本の組織でしょうか。

A
UNSCEAR(アンスケア)は、国連の科学委員会です。
UNSCEARの正式名称は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」です。第二次世界大戦後の核実験による放射線が人類にどのような影響を及ぼすのかを調べる目的で1955年に国連総会決議より設立されました。
科学的・中立的な立場から、放射線の人・環境等への影響を調査・評価を行い、毎年国連総会へ結果を報告し、数年ごとに詳細な報告書を出版しています。
Q2

福島第一原発事故の放射線被ばくが直接の原因となる健康影響(例えば発がん)が将来的に増える可能性は高いのでしょうか。

A
将来的に健康影響が増える可能性は低いです。
UNSCEAR2020報告書の中で、福島の原発事故における放射線被ばくが直接の原因となる健康影響(例えば発がん)が将来的に見られる可能性は低いとしており、福島県の県民に、事故による放射線被ばくが直接の原因となりうる健康への悪い影響は報告されていないと強調しました。
Q3

福島第一原発事故当時に子どもだったのですが、放射線被ばくした場合、甲状腺がんになる確率は高くなるのでしょうか。

A
甲状腺がんの発生は見られそうにありません。
UNSCEAR2020報告書の中で、放射線被ばくの推定値から推測されうる甲状腺がんの発生を評価し、子供たちや胎内被ばくした子供を含む、対象としたいずれの年齢層においても甲状腺がんの発生は見られそうにないと結論付けました。
Q4

福島第一原発事故の際、妊娠中でした。被ばくした場合、胎児や赤ちゃんの健康に影響はありますか。

A
健康への影響が発生したという確かなエビデンスはありません。
UNSCEAR2020報告書の中で、一般公衆の間で放射線被ばくが関係している先天性異常、死産、早産が過剰に発生したという確かなエビデンスはありません。
Q5

福島第一原発事故の際、作業者として福島にいたのですが、白血病やがんの発生が増加するという噂を聞きました。

A
白血病やがんの増加は見られそうにありません。
UNSCEAR2020報告書の中で、作業者に関して、白血病と全固形がん(甲状腺がんを含む)の発生の増加が見られることはありえそうにないと結論付けました。
Q6

私も妻も福島第一原発事故当時は福島におり被ばくしました。今、現在は共に健康なのですが、これから子どもができた場合、被ばくの影響は遺伝するのでしょうか。

A
ヒトでは被ばくの影響が遺伝することは確認されていません。原爆被爆者二世の健康影響調査でも、影響は認められていません。
  • 出典:
    放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 上巻 第3章 105ページ「ヒトでの遺伝性影響のリスク」 106ページ「被爆二世における染色体異常」より作成
Q7

子どものほうが大人より甲状腺がんや皮膚への影響が大きいと聞きました。実際にはどのくらいの差があるのでしょうか。

A
子どもの方が健康への影響は大きいです。
子どもは、大人と比較して甲状腺や皮膚への放射線による健康影響が大きいことが知られています。
ただし、全身線量で100ミリシーベルト(mSv)以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの増加、年齢層の違いによる発がんリスクの差は明らかになっていません。
  • 出典:
    国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(ICRP Publication 103)より作成
Q8

チョルノービリの原発事故で、近隣住人が白血病になるリスクはどのぐらい増加したのでしょうか。

A
チョルノービリ原発事故による放射線影響として、白血病の発症リスク増加は、住民において確認されていません。
  • 出典:
    • ①UNSCEAR2000年報告書付属書
    • ②UNSCEAR2008年報告書 放射線の線源と影響 [日本語版] 第2巻:影響 科学的附属書C・D・Eより作成
Q9

雨の日には放射線量が高くなると聞いたことがあります。どうして雨の日の方が量が多くなるのでしょうか。

A
大気中に存在する天然の放射性物質の影響です。
空気中のラドンの娘核種が雨で地表面に落ち、地表近くの空間線量率を上げます。この現象は自然放射線によるものですので、福島第一原発の事故以前にも観測されています。
  • 出典:
    量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所ウェブサイト「放射線被ばくに関するQ&A」より作成
Q10

昔の核実験でできた放射性物質は今も残っているのでしょうか。

A
昔の放射性物質は残っています。
セシウム137やストロンチウム90の半減期は約30年ですから、1945年から1980年にかけてアメリカ、フランス、旧ソ連、中国などが行った大気圏内での核実験により生成されたものが残っています。
  • 出典:
    日本の環境放射能と放射線ウェブサイトQ&Aより作成
Q11

原子力災害が発生した場合、飲用井戸水にも放射能の影響が出るのでしょうか。

A
激しい雨などによっては注意が必要です。
放射性セシウムは、特定の粘土鉱物に強く吸着する性質があるため、ほとんどが土壌表層部にとどまり、飲料用井戸水を取水する地下深くまで浸透することはないと考えられています。しかし、激しい雨等によって表層土壌が井戸に直接流れ込む場合には注意が必要です。福島第一原発事故に関しては、飲用井戸水にはほとんど影響がありませんでした。
  • 出典:
    福島県ふくしま復興ステーション「飲用井戸に関すること」より作成
Q12

福島の食品の放射線量は、世界的に見てどのくらいの年間線量なら安全と言えるのでしょうか。

A
食品の放射性物質の基準値は、年間1ミリシーベルト以内となるよう設定されています。
これは、食品の国際規格を策定している国際機関(コーデックス委員会)が食品の介入免除レベル(特段の措置をとる必要がないと考えられているレベル)として採用している年間線量1ミリシーベルトに基づいています。
また、食料調達に影響がない範囲内で合理的に達成可能な限り低く抑えるというALARA(as low as reasonably achievable)の原則に基づき、設定されています。
  • 出典:
    厚生労働省「食品中の放射性物質に係る基準値の設定に関するQ&Aについて(平成24年7月5日)」より作成
Q13

家庭菜園で作った野菜など、自家消費する食品についても放射線量の基準値は適用されますか。

A
放射線量の基準値は適用されます。
自分や家族で食べるために作った野菜など、販売することを目的にしない食品は、規制の対象にはなりません。ただし、販売することを目的にしない食品であっても摂取制限の対象になります。
  • 出典:
    • ①厚生労働省「食品中の放射性物質に係る基準値の設定に関するQ&Aについて(平成24年7月5日)」
    • ②厚生労働省「食品中の放射性物質の対策と現状について(平成27年11月20日)」より作成