トップバナー

 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故から13年近くがたち、福島は力強く復興の歩みを続けています。しかし、今なお、根拠のない思い込みや誤解から生じる風評によって、福島の食品を食べたり、福島に行ったりすることを敬遠する人もいます。さらに同発電所にたまり続けているALPS処理水の海洋放出が始まり、新たな風評が生じることも懸念されています。復興庁では、こうした風評を防ぎ、復興を後押しするため、科学イベントや食フェスにブース出展するなど、放射線や放射性物質に関する正しい知識や「常磐もの」と呼ばれる福島県産の水産物の魅力や安全性について知ってもらう取り組みに力を入れています。

「放射線は身の回りにある」「ゼロにはできない」疑似体験で実感

「青少年のための科学の祭典2023全国大会」に出展した復興庁ブースで、箱庭型教材を使い、放射性物質に見立てた磁石を探す親子

「青少年のための科学の祭典2023全国大会」に出展した復興庁ブースで、箱庭型教材を使い、放射性物質に見立てた磁石を探す親子

「地面からも放射線が出ているなんて知らなかった」。「物質によって出ている放射線の量が違うことがよく分かった」。

 東京都千代田区の科学技術館で7月29、30日に開かれた「青少年のための科学の祭典2023全国大会」(主催・日本科学技術振興財団)は、大勢の親子連れでにぎわっていました。多くの企業や団体が出展し、科学のおもしろさを伝え、夏休みの自由研究のテーマにもなる実験や工作が体験できるイベントに、復興庁もブースを出展しました。

 放射線は身の回りに普段から存在することなど、放射線に関する基礎知識を学んでもらうことが目的です。ブースでは、日本科学技術振興財団が大学生や大学院生らを対象に実施している「放射線教材コンテスト」の第1回(平成30年度)で最優秀賞に選ばれた箱庭型教材を使用。放射線について学ぶ学生らが解説員を務めました。箱庭には海に浮かぶ船、食卓の食べ物、太陽、星、温泉などがあり、棒に磁石を糸で吊るした釣り竿のような放射線測定器に見立てた「探索器」を使って、磁石の反応で放射性物質がどこにあるかを探す疑似体験ができるようになっています。

 子供たちは、箱庭のいろいろな場所に糸を垂らし、船底(塗料)や食卓の食べ物(食塩)、畑の土(肥料)など、意外なものに磁石が仕込まれていることを発見し、驚きの表情をみせていました。出る放射線の量の違いによって、磁石の反応の強さも違うため、反応が弱いものはなかなか見つけられず、親に助けを求める子供もいました。千葉県市川市から来た小学5年の島田光さんも、地面や太陽から放射線が出ていることを知り、「ビックリしたけど、放射線がどこにでもあることがよく分かった」と納得顔でした。

 探索の後は、簡易放射線測定器を使って、船底塗料や温泉の湯の花などの試料の放射線を測定し、放射線の量に違いがあることを確認しました。探索で、磁石の反応する強さに違いがあることを体験した上で、実際に計測してみることで、子供たちも、放射性物質によって、放射線量に差があることを実感を持って理解していました。

「福島の食品の安全を実感」パネルや動画で学ぶ

復興庁ブースで解説員を務めた放射線について学ぶ学生

復興庁のブースでは、放射線について学ぶ学生が解説員を務めた。

 また、ブースには、福島県の主な都市と世界の主要都市の放射線量が同水準であることや、福島県産の食品の放射性物質検査の結果などを紹介するパネルを展示。復興に向けた風評払拭のための取り組みやALPS処理水の海洋放出について解説する動画も流されました。東京都福生市から来た小学4年の若月新さんは、こうしたパネルもしっかり見て回り、「放射線について、他のところと比べても、福島が安全ということが分かった」と話しました。若月さんの母親も、「昨日も福島県産の桃を食べたけれど、市場に出回る福島県産の食品が安全であることが改めて実感できた」と、安全性への理解を深めた様子でした。

 今回使用した箱庭型教材を考案した学生や解説員を務めた学生らを指導する帝京大の鈴木崇彦客員教授は、「震災以降、『(放射線が)ゼロじゃなきゃだめ』という声が増えたと思う。でも、ゼロにすることはできない。どんな生活をしているかによって、体に受ける放射線量は全然違う」と指摘。「例えば、子供たちがあこがれるパイロットや宇宙飛行士といった職業の人は、特に多く放射線を浴びる。放射線で問題になるのは量であって、そもそもゼロを目指すものではない。リスクというのは、比較して考えないといけないのだと教えたい」と、放射線教育の大切さを強調します。解説員を務めた帝京大3年の野尻美咲さんは、「小さい子には説明が難しいけれど、磁石を使うと、理解してもらえる。理解してもらえたと思えたときには、やりがいを感じた」と、教える喜びを話してくれました。

アンケート1  実際、参加した子供と保護者を対象に行ったアンケート調査からも、子供たちがしっかりと放射線に対する理解を深めたことがうかがえます。「放射線は普段から身の回りにある」との問いに「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた子供は99.6%に上り、「放射線は見えないが測ることができる」との問いには、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」が100%でした。

「放射線について考えるきっかけになった」保護者にも学びの機会

2023名古屋大会に来ていた親子

名古屋市で開かれた「青少年のための科学の祭典2023名古屋大会」の復興庁のブースにも大勢の親子が訪れた。

 復興庁では9月30日、10月1日に名古屋市科学館(名古屋市中区)で開催された「青少年のための科学の祭典2023名古屋大会」にも同様のブースを出展しました。ここでも、放射線について学ぶ大学生が解説員を務めました。

 子供たちは、身近にある意外なものが放射線を発していることに驚いた様子。愛知県阿久比町から来た小学6年、勝木結菜さんは「花崗岩から放射線が出ていることは知らなかった。物質によって出る線量が違うことが分かっておもしろかった」と、興味津々でした。三重県桑名市から来た中学2年の3人組は科学部に所属する〝リケジョ〟と〝リケダン〟。「放射線の半減期やレントゲンなどの医療で放射線が使われていることは、部活で学んだ。健康に影響が出る放射線量について知ることができた」と、放射線への理解を深めていました。

 名古屋会場で行われたアンケートでも、東京会場と同様に、子供が放射線について正しく理解したことが分かりました。保護者へのアンケートでは、「放射線について考えるきっかけになった」との回答が99.3%に上っており、大人にとっても貴重な学びの機会となりました。

 復興庁の担当者は「放射線は目に見えないので不安を感じると思うが、どこにでもあることを模擬的に体験してもらい、怖がることはないという科学的な理解を深めてほしい。これからの社会を担う子供たちに一人でも多く理解してもらいたい」と、取り組みの意義を強調しました。

「福島の魚を食べて応援したい」クイズで楽しみながら学ぶ

復興庁ブースで、パネルを見ながらクイズに答える親子

「SAKANA&JAPAN FESTIVAL2023(魚ジャパンフェス)in お台場」に出展した復興庁ブースで、パネルを見ながらクイズに答える親子

 復興庁では11月23~26日に、東京都江東区のお台場青海地区特設会場で開かれた国内最大級の魚介グルメフェスティバル「SAKANA&JAPAN FESTIVAL2023(魚ジャパンフェス)in お台場」にもブースを出展しました。福島の魚介料理が味わえる「発見!ふくしまお魚まつり」も同時開催されており、イベントには4日間で約17万2000人が来場しました。

 「福島県のお魚や復興のことをもっと知ろう」と題した復興庁のブースでは、放射線の基礎知識やALPS処理水のほか、季節ごとに獲れる「常磐もの」の種類や福島の観光スポットなどの魅力をパネルや動画で紹介。訪問者は、パネルを見て、福島のお魚のことなどをクイズで楽しみながら学び、会場で使えるチケットが当たる抽選にもチャレンジしました。

 クイズでは「放射線の空間線量が、福島県の会津若松市と同じ都市はどこでしょうか?」(答え・ニューヨーク)、「三陸沖・常磐沖は2つの海流がぶつかりあうことで多くの魚が獲れると有名です。2つの海流とは「親潮」と何でしょうか?」(答え・黒潮)といった問題が出され、訪問者は楽しみながら学び、抽選でチケットが当たった人は福島の魚介料理を堪能していました。

 群馬県太田市から来た70代の女性は、テレビでイベントのことを知り、娘と孫の3世代で訪れました。3人でパネルを熱心に見て、クイズにもしっかりと正解。「福島県のお魚はおいしいし、放射線も気にしたことがなかったけれど、検査がしっかり行われていて安心なのだと改めて分かった。これからも食べて応援したい」と、笑顔で語りました。1歳の子供と一緒に来ていた東京都内の40代の男性も、「基準値より低いので安心だということを数字で知ることができた」と、安全性への理解を深めていました。

魚介を使った料理を堪能する来場者

「常磐もの」と呼ばれる福島県の魚介を使った料理を堪能する来場者

アンケート2  復興庁のブースには、4日間で約3000人が訪問。アンケートでは、「イベント参加前は福島県の海産物の安全性についてどのように感じていましたか」との問いには、「少し不安があった」「不安があった」と回答した人が5.7%(166人)いました。しかし、復興庁ブースを訪れたことで、福島県の海産物の安全性について「理解が深まった」「やや理解が深まった」と回答した人は98.4%(2854人)を占め、「今後、福島県産の海産物を食べたいと思いますか」との問いには98.9%(2872人)が「食べたい」「どちらかというと食べたい」と回答しました。

 復興庁の担当者は「放射線について、科学的に正確に理解してもらうことが、誤解による風評を防ぎ、福島の復興を後押しすることになると考えている」と話しており、今後もこうした取り組みを続けていきたい考えです。