「地元の祭りがあると、自然と祭りの日には人がたくさん集まってきますし、まだまだ帰還してくる方が少ない中で、この日には戻ってみようかな、足を運んでみようかなと思ってもらえることも多いと思います。やはりお祭りや伝統芸能は人と人とをつなぐ大きなきっかけになると思います」
この春、福島県浪江町の請戸(うけど)地区に再建する「苕野(くさの)神社」の前でこう話すのは、横山和佳奈さん(25)。神社の伝統行事として300年以上前から続く「安波祭」で奉納される「請戸の田植踊」の踊り手の一人です。東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故があった後も、避難先で踊りを続けてきました。今回、横山さんの伝統芸能を守る思いと双葉郡の未来への願いをアイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーで、福島県いわき市出身の諸橋沙夏さんが聞きました。
横山さんが踊りを始めたのは、震災前。請戸小学校4年生の時でした。毎年家を訪れる、かわいい衣装を身にまとった踊り手の姿は、幼い横山さんにとって憧れの存在でした。踊り手は、色鮮やかな花笠をつけて苗を植える「早乙女」、苗を運び、苗打ちをする「才蔵」、その間で大きく飛び跳ねながら手持ち太鼓を鳴らす「中打ち」から構成されています。「相馬流山」や「大漁節」などの民謡に合わせて「早乙女」が四ツ竹を鳴らし、「才蔵」が扇子を大きく振りながら踊るのが特徴です。
「震災前は祭りの日に出店がたくさん出ていて、お客さんがたくさんいる中で踊っていました。請戸の一大イベントだったので、緊張したけども楽しかった」
震災直前の2011年2月に開かれた安波祭でも、苕野神社の周辺はいつもの賑わいを見せていました。当時小学6年生の横山さんは「中打ち」として踊りを奉納しました。まさか、あの後、神社を含む請戸地区のほとんどが津波に流され、住民たちが全国各地に散り散りになるとは、想像していませんでした。横山さんも家族とともに浪江町から避難しましたが、田植踊だけは続けてきました。
「震災後は踊り手となる子どもたちが全国散り散りになってしまい、後継者がいなくなってしまったのでOGたちが集まって踊っていました。最初は、請戸の子、女の子という制限でやっていたのですが、そうは言っていられない。まずは年齢制限を撤廃し、『男の子でも、年上の方でもいいよ、誰でもいいよ、浪江の方でなくてもいいよ』としました。今は踊りが好きな人に踊っていただく形で何とか集めて続けている状態です」
請戸芸能保存会は“慣例よりも、伝統芸能を絶やさず続けていくことが何よりも大切”と考えたのです。町が復興し伝統を守り続けるためには、住民が増えることが必要ですが、2023年12月末現在で町の人口は2,146人と、震災前の1割ほどにとどまっています。
「一度、全ての町民が避難してしまった場所なので、帰ってきていいと6年後に言われても、帰る人はなかなか少ない。そうした中、移住してくださる方もいます。もう少しお店や病院が充実していくと、さらに人が増えていってくれるのではと期待しているところです」
横山さんは現在、双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館のスタッフとして働きながら自らの被災経験を伝える活動もしていて、2023年夏には、県内出身の和楽器奏者や福島市の高校生たちと一緒に朗読劇『請戸小学校物語』を上演しました。2011年3月11日の請戸小学校が舞台。地震が発生した後、校舎内にいた児童と教員全員が学校から1.5キロ離れた高台の大平山に避難しました。海から300メートルの校舎は、揺れがあった約50分後に2階部分に達する津波に襲われましたが、迅速な対応のおかげで全員が無事でした。朗読劇はその体験をもとにした津波避難の大切さを伝えるものですが、横山さんはこの物語に“ある思い”を込めました。
「自分にもし災害が降りかかってしまったら、命を守るためにちゃんと逃げなければならないと思ってもらいたいというのが一番です。それだけではなく、この物語を通して請戸という場所を知ってほしいのです」
避難先で伝統芸能を続け、震災の経験を伝える職業に就いた横山さん。ずっと震災と向き合い続けていますが、故郷に寄り添う気持ちが揺らがなかったのかを問うと、少し悩みながらこの13年間抱えていた思いを明かしてくれました。
「やはり私自身、田植踊とかで、(他の同世代の子と比べ)人一倍、請戸と関わる機会が多かった。踊りをやっていて良かったと思う一方で、踊りに関わってなければ、もう少し楽に避難先の生活になじめたのでは、と思うこともありました。そこが自分の中で葛藤した部分でした」
それでも故郷の近くで働く今があるのは、2020年に双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館が完成したことが大きかったと話します。
「大学卒業後の進路を考えたとき、災害を伝承する仕事は自分のやりたいことの一つだった。浪江町のある浜通りで仕事を見つけたから、帰ろうと。大人になってから気付きましたが、浜通りは冬がそこまで寒くなく、夏もそこまで暑くない。とても過ごしやすくて感動しました」
現在は南相馬市で暮らし、慣れ親しんだ浪江町請戸地区を通って双葉町の職場へ向かっています。生まれ故郷の変化を日々感じているという横山さんに、浪江町を含む相双地区の未来についての願いを聞きました。
「課題はまだまだありますけど、人は少しずつ増えているし、新しい建物ができ始めている。伝承館周辺や、私が住んでいた請戸などが、震災前と同じくらい賑わってくれたらいいなと思っています」
PRESENT
「黄金蜜酒」は日本酒の製造方法を取り入れた本みりん。「呑む本みりん」が謳い文句で、口に含むとほんのり蜂蜜のような甘さが広がります。料理はもちろん、ソーダ割りでレモンを一搾りしても、バニラアイスやプレーンヨーグルトにかけても絶品です。
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ラジオ放送情報
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