Hand in Handreport.69

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2024.01.19

復興途上で店が全壊…松川浦で人気「齋春海鮮丼」、不屈の再復活

齋春商店店主の齋藤智英さんと諸橋沙夏さんの写真

磯の香りが広がる福島県相馬市の「松川浦」。観光ガイドブックに「日本百景にも選定される風光明媚な場所」と紹介されるこの地区には、福島県唯一の潟湖があります。海水と淡水が交わる干潟は多種多様な生き物が棲み、アサリの潮干狩りや穏やかな環境を生かしたアオサノリの養殖で栄えてきました。点在する小島群が自然の造形美をつくり、日本三景の松島になぞらえて「小松島」とも呼ばれています。この地区の美食と絶景を求めて多くの観光客たちが訪れます。

今回はこの相馬市松川浦地区で最も有名な食堂「齋春商店」を、女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーで、福島県いわき市出身の諸橋沙夏さんが取材しました。

観光ガイドブックに日本百景にも選定される風光明媚な場所と紹介される小松島の風景

食堂ですから、まずは腹ごしらえ。諸橋さんが注文したのはこの店の名物「齋春海鮮丼」です。目の前に届くと、諸橋さんは「えー!すごーい!」と店中に響くほどの歓声。それもそのはず、大トロ、中トロ、ウニ、イクラ、ホタテ、ホッキ、ブリ、サワラ、ボタンエビといった豪華な魚介類が丼からはみ出すほどのボリュームで乗せられています。元々は鮮魚店を営んでいたこともあり、地元産はもちろん全国の漁港から店主の目利きでこだわりの素材を仕入れています。そのネタと店オリジナルの赤酢を使った酢飯の相性は抜群。味に魅了され、観光客だけでなく地元の人たちも通うほどの名物です。

店の名物「齋春海鮮丼」を手に笑顔の諸橋さん

60年以上続く老舗の「齋春商店」ですが、現在営業しているのは仮設の店舗です。度重なる苦境が危機に陥れていたのです。

「震度6強の大地震に3度も襲われ、元の店舗は全壊してしまったのです」

齋春商店は海の近くで魚屋として開業し、海水浴や潮干狩りで訪れる観光客たちをもてなすために食堂、旅館を営むようになりました。最初の危機は2011年の東日本大震災です。津波が松川浦に押し寄せ、海の目の前にあった建物は3階建ての2階部分まで浸水。風光明媚な景色を一変させただけでなく、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響による漁の制限で、店主の齋藤智英さんは「もう終わった」と感じたと言います。

とても大変な状況でしたが、全国から温かい支援がありました。北海道から沖縄まで、沢山の友達や知り合いが助けてくれましたと語る店主の齋藤智英さん

「とても大変な状況でしたが、全国から温かい支援がありました。北海道から沖縄まで、沢山の友達や知り合いが助けてくれました」

支援を受けて齋藤さんは家族とともに津波で浸水した建物を再建し、復活を果たします。相馬市の漁業は少しずつ水揚げが増え、風評に立ち向かいながらも様々な努力で少しずつ観光客が戻ります。齋春商店の営業がようやく再軌道に乗ってきた2021年2月、福島県沖を震源とする地震が発生し、相馬市は震度6強の揺れを観測しました。幸い建物の被害は少なかったものの、新型コロナウイルスの影響で客足が途絶えていたこともあり、窮地に立たされました。さらに追い打ちをかけたのが3度目の大地震。2022年3月の深夜、震度6強の揺れが相馬市を襲ったのです。

「2022年の地震の方が揺れはひどかった。店の窓ガラスが全部割れて、寝ていた顔に落ちてきました。津波が怖くて一時避難したあと店に戻ってみたのですが、とても営業できる状態ではなかったです」

取り壊さざるを得ない状況にまで追い込まれた齋春商店の地震直後の様子

大津波からの復活を果たした齋春商店は、この年の地震で建物は全壊という被害認定を受け、取り壊さざるを得ない状況にまで追い込まれたのです。しかし、齋藤さんは、途方に暮れながらも、廃業という道を選びませんでした。

「何とか営業を再開しようと、壊れた店の前で浜焼きを始めました。大地震があったものの、松川浦に観光客が訪れてくれていたので、海のものを食べてほしいと思っていました。ところが、そのお客さんたちは浜焼きを買わずに帰ってしまいます。その理由を聞くと、『どうしても海鮮丼を食べたい』と言うのです」

齋藤さんはその言葉で決心しました。浜焼きではなく、名物であるあの海鮮丼を復活させたいと。東日本大震災後に店を再建するため大きな借金を抱えていた齋春商店。新たに建て直すとなるとその額は億円単位に膨れ上がります。それでも、祖父の代に創業した老舗の3代目を継ぐ男の覚悟は揺らぎませんでした。

「海鮮丼の味を楽しみにしているお客さんが全国にいます。相馬市から50キロも離れた福島市から週に3回も通ってくる常連さんもいるのです。皆さんの期待に応えたいと思いました」

新築された齋春商店の様子

とはいえ、店を新築するのには時間がかかってしまいます。すぐに営業を始めたいと、仮設店舗にすることを決意。元の場所からおよそ2キロ離れた場所で、20席ほどしかない狭さですが、2023年1月6日に営業を再開しました。

「どれくらいのお客さんが来てくれるか不安でしたが、営業を再開した初日から沢山の来店がありました。あの福島市の常連さんも来てくれて1年ぶりに海鮮丼を食べてくれました。とにかく嬉しかったです」

営業を再開した初日から沢山の来店がありとにかく嬉しかったですと語る店主の齋藤さん

諸橋さんも食べた「齋春海鮮丼」は、相馬市松川浦の復興のシンボルとして「復興丼」とも呼ばれて注目されています。震災のずっと前から地元の人に親しまれ、全国のファンに愛される存在だからです。そして、齋春商店に注がれる愛は、名物の海鮮丼だけではありませんでした。

取材の間、仮設店舗のレジカウンターでその様子を見守っていたのは、店主の妻・麻美さん。大阪府出身で、齋春商店が窮地に陥っていた2022年に結婚したそうです。その経緯を聞くと、明るい表情でこう答えてくれました。

「私はとてもプラス思考です。ゼロからやり直そうとするトモくん(智英さん)と一緒に頑張れる人生はとても楽しいです。地元の人たちはいい人たちばかりで、食べ物も美味しい。齋春商店だけではなく、常磐ものの良さをもっと多くの人に知ってもらいたいと思います」

店主の齋藤さんと妻の麻美さん

建物全壊という絶望から仮設店舗の再開を決意した3代目にとって、妻の存在が大きな支えになっていたのではないでしょうか。そんな齋藤さんに「今後の夢」を聞きました。

「建て替え中の新店舗が2025年春に完成する予定です。その全容はまだお伝えできませんが、最高の海鮮丼とともに最高の宿泊ができる食堂旅館を目指しています。本気を出していますよ。是非、松川浦に来てもらいたいです」

幾度もの災害を乗り越えて前に進み続ける齋春商店の今後に、期待が高まります。

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時10分ごろに放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
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