Hand in Handreport.63

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2023.10.20

避難中も種をつないだ 飯舘村生まれのかぼちゃを守る渡辺とみ子さん

いいたて雪っ娘かぼちゃをアピールする諸橋沙夏さんと渡邊とみ子さん

東日本大震災に伴う原子力発電所事故の影響で、一時は全村避難になった福島県飯舘村。その飯舘村が誇る特産品のかぼちゃがあります。「いいたて雪っ娘かぼちゃ」です。品種登録も終わり、その名を広めていこうとした矢先に震災が発生しました。それでも種を守り、避難先での栽培をはじめ、いくつもの困難に見舞われながらも大切に育てられてきました。

いいたて雪っ娘かぼちゃを栽培し、その加工場の代表をつとめる渡邊とみ子さんはこのかぼちゃをどのように守ってきたのでしょうか。女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーでいわき市出身の諸橋沙夏さんがインタビューしました。

一般的なカボチャよりも白くつるつるとして光沢のある、いいたて雪っ娘かぼちゃ。半分に切ると甘い香りが漂い、メロンのようなきれいなオレンジ色の実が濃密に詰まっています。渡邉さんは、「実がホクホクしていて、繊維が少ないのでしっとりしている。上品な甘さで、離乳食やスイーツなど加工品にもぴったりです」とその魅力を語ります。

いいたて雪っ娘かぼちゃの写真

渡邊さんがいいたて雪っ娘かぼちゃと出会ったのは震災前です。平成の大合併が全国に広がる中で、飯舘村の存続について議論しているときでした。合併せず村として残ることが決まり、地域づくりに携わっていた渡邊さんは、村の特産品を生み出す活動をする中で育種家の菅野元一さんと出会いました。菅野さんは農業高校で教師をする傍ら、30年近くの歳月をかけてかぼちゃを品種改良し、種を育成していました。菅野さんが作ったかぼちゃを村が誇る特産品として何とか世の中に広めていきたいと思った渡邊さんは、当時携わっていた縫製業をやめてかぼちゃの育成に専念することを決意しました。

「元々兼業農家の家で育ったので、ある程度のことはわかっていたけれど、やっぱり初めて作るものだったので、勉強しながら育ててきました」と渡邊さんは当時を振り返ります。品種登録が終わったのは2011年3月。いざ「いいたて雪っ娘かぼちゃ」を広めていこうとしていたその矢先、原発事故の影響で、避難せざるを得なくなりました。

渡邊さんは長野県白馬村や福島市で避難生活を送りました。その間ずっと、「とにかく畑を探して種を蒔かなければ」とばかり考えていたといいます。そして、福島市で遊休農地を借りて、再び育てることにしました。しかし、避難生活中であったため、必要な農機具が手元にはありませんでした。全く違う土地での営農再開は、想定外のことが多く困難を極めたといいます。

インタビューを受ける渡邊とみ子さんの様子

渡邊さんが借りたのは、耕作整理がされていない土地でした。近所の人が持っていた一般的な40馬力のトラクターでは耕すことができないほど土が固く、大型のトラクターが必要でした。新たに農機具を購入し、50a(5000㎡)以上もある広大な土地を掘り起こしてうねを作り、手作業で畑にしていきました。

飯舘村とは全く違う環境下で試行錯誤を重ねました。種を蒔いておよそ2週間が経ち、待ち望んでいた芽が出てきた時、思わず涙が浮かんできたと言います。「こんなに大変な環境の中で、こんなに小さな種が芽吹いてくる生命力を目の当たりにして、私もめげちゃいけないなとすごく元気づけられました」

ただ、すべてがうまく行った訳ではありませんでした。その土地は元々田んぼだったため、雨が降ると水が溜まって苗が育たなくなってしまいました。かぼちゃが育ったとしても、日光に当たって禿げてしまい、そこから割れてしまう「日照り障害」が起きました。飯舘村では起きたことのない現象です。避難先は納屋がなかったために軒下にコンテナを重ねて保管していましたが、やっとの思いで収穫したかぼちゃをネズミが食べてしまったこともあります。

次から次へと現れる壁を前にしても、渡邊さんは決して諦めませんでした。「とにかく種をつなぐことに必死だった」と語ります。

かぼちゃは異なる品種同士でも交雑してしまうため、近所に違う品種が植えてある場所では雪っ子かぼちゃを守ることができません。渡邊さんは避難先で毎年収穫祭を開いておいしさを実際に味わってもらうなどし、周囲の協力を得て種を守ってきました。

そしてついに、2017年に避難指示が解除され、飯舘村に戻って営農を再開。種を失うリスクを分散させるために、現在は飯舘村と福島市の2拠点で作っています。

渡邊さんは、いいたて雪っ娘かぼちゃの加工もしています。今回取材した加工場では、かぼちゃをペースト加工して使用したマドレーヌやジェラート、プリン、福島の養蜂場と共同開発した焼きドーナツなど、さまざまな商品を作っています。

いいたて雪っ娘かぼちゃで作ったマドレーヌの写真

中でもロングランのヒット商品が、2011年に避難して最初に作ったマドレーヌです。避難先のお菓子屋さんに商品づくりを依頼しました。パッケージには、渡邊さん夫婦が農作業する様子が描かれています。試食した諸橋さんは「本当にしっとりしていて食べやすい。まるでかぼちゃそのものを食べているみたいでおいしい」と絶賛していました。

続いて試食したのはジェラートと、かぼちゃプリン。渡邊さんは「プリンは25%、ジェラートは40%もいいたて雪っ娘かぼちゃを使用しています。私はかぼちゃ農家だから贅沢に使えるんです」と胸を張ります。

諸橋さんは「人生初のかぼちゃプリンがこれで本当に良かったです」と笑顔で話していました。それを見た渡邊さんも心の底から嬉しそうに笑っている姿が、とても印象的でした。

いいたて雪っ娘かぼちゃと諸橋沙夏さんと渡邊とみ子さん

「あの時、原発事故を理由にかぼちゃ作りをやらないという方法を選んでいたら楽だったかもしれない。だけど私は難しい方を選ぶようにしている。普通の人にとってみればそんな面倒なことやめればいいのにと思われるかもしれない。けれど、種を作った菅野先生から贈ってもらった『諦めないで継続してやっていくことが大切だ』という言葉に支えてもらっている」

決して簡単ではなかった「種を守る」という選択。それは、いいたて雪っ娘かぼちゃを通じて笑顔の種をまいていくということでもあったのだと、渡邊さんが教えてくれたような気がします。

次回は、飯舘村にある渡邊さんの畑で、いいたて雪っ娘かぼちゃのこれからについて伺います。

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時10分ごろに放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
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