Hand in Handreport.59

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2023.08.18

いわき四倉を賑わう海に サーフショップ再開11年・猪狩優樹さん

猪狩さんと諸橋さん

安定した良い波と、広い砂浜…。福島県いわき市にある四倉海岸は、サーファーたちが”一度来たら虜になってしまう”日本屈指のサーフポイントです。2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、一時は人が来なくなり閑散としたといいます。そんな四倉の海を愛し、守り続けてきた人がいます。サーフショップ「GLORY SURF」を営む猪狩優樹さんです。震災が起きたあの日、津波の影響で自身のサーフショップを手放さざるを得なくなりましたが、その1年後、海の近くに再オープンし、四倉の海を盛り上げ続けてきました。彼を突き動かしたサーフィンへの思いとは一体何でしょうか。いわき市出身で、指原莉乃さんがプロデュースしたアイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバーでもある諸橋沙夏さんがインタビューしました。

GLORY SURF外観

取材に訪れた「GLORY SURF」は、四倉海岸の目の前に位置し、海から吹く風が潮の香りを運んできます。お店の中には色とりどりのサーフボードやビーチサンダル、ウェットスーツなど、サーファーの心をくすぐる商品がずらりと並んでいます。

「自然と一体化できるからサーフィンが好き。自然はどんな人にも贔屓しない。自然の楽しさも、怖さも、サーフィンから教わった」と話す猪狩さんは、サーフショップを経営する傍ら、日本サーフィン連盟福島支部長を務め、年間200日ほど波に乗るサーフィン歴28年のベテランです。

インタビュー中の猪狩さん

猪狩さんがサーフィンをはじめたのは20歳の時で、理由はモテたかったから。実際のところは、「波が気になりすぎて恋愛が疎かになり、逆にモテなかった」と笑います。

どんどんのめりこみ、いつしか自然と自分のサーフショップを開きたいと思うようになった猪狩さん。そして開店したのが「GLORY SURF」です。四倉を心から愛する猪狩さんの人柄を慕うサーファー仲間が多く訪れ、経営も順調でした。

それから3年が経ち、東日本大震災が起きました。四倉海岸をおよそ7.5メートルの津波が襲い、海沿いの広範囲が浸水などの被害を受けました。いわき市四倉地区だけで、697世帯が被災しました。

「とんでもないことが起こった」。

屋内の安全な場所に避難していた猪狩さんは変わり果てた四倉の街を見て、そう思いました。しばらくして、様子を見ようとウェットスーツを着て海沿いへと向かいました。まだ腰の高さ程ある茶色く濁った冷たい水の中を、あたり一面のゴミや瓦礫をかき分けながら進みました。軒先で倒れこむ人や、懐中電灯で救助を求める人を見つけ、消防に連絡。そのまま一緒にカヌーに乗って救助活動をしました。

猪狩さんはその後、栃木県へ避難することになりました。その間も、早くサーフィンがしたいと、四倉の海をいつも想っていました。

猪狩さんのお店は、直接の津波被害はありませんでした。しかし、しばらくして様子を見に戻った時、愕然とします。窓が丸く切り抜かれ、時計やサングラスなどがすべて盗まれていたのです。残った商品は警察に証拠として提出し、物販が出来ない状態になってしまいました。

「同じ場所でサーフショップを開いたらまた同じように窃盗被害にあうかもしれない―」という不安が頭をよぎりましたが、そんな状況に陥っている四倉への思いをむしろ強くしました。そして、四倉のほかの場所で再びお店をオープンしようと決意しました。
「やっぱり地元でサーフィンがしたかった。そのためには誰かがお店を再開しなくちゃって。自分にはこの道しかないと思っていたので、最初からやめる気持ちは全くありませんでしたし、再開に迷いもなかった」と当時を振り返ります。

GLORY SURFの中の様子

震災から約1年後、四倉海岸のすぐ近くに再オープンしました。「震災後、海を離れていく人はやっぱりいた。でも今はこうしてレジャーブームやアウトドアブームの後押しもあって、またサーフィンをやってみようかなという復活組も多くなってきました。だから僕は、震災からしばらくの期間は浜にとっての”休み”というか、”一旦休憩”みたいな感じだったんじゃないかなと思う」。四倉の海を見守り続けている猪狩さんは、そう表現します。

四倉の海水浴場は2013年に再開。他の被災地よりも復興のスピードが早かったと言われています。その理由について、猪狩さんは「この地域の人たちは皆さんとても海が好き。とにかくまた元の四倉に戻そうという気持ちが強かったからじゃないかな」と解説します。

海をみつめる猪狩さん

一方で、「僕には四倉を震災前より良くしようという思いはない。ただ、普通でいいんじゃないかと思う。震災前にどれだけ戻せるかとか、震災前の四倉を超えようということじゃなくて、普通が一番幸せだと思っている」とも話します。

猪狩さんが思う”普通”は、これからの四倉海岸を明るく照らすポジティブな意味を持つに違いないと感じました。次回の記事では、四倉の海が活気を取り戻すために行われてきた取り組みとその思い、そしてこれからの四倉の海について、深掘りしていきます。

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時10分ごろに放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
※タイムフリーは、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできる機能です。

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