Hand in Handreport.57

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2023.07.21

福島県大熊町に「農業をしたい!」と飛び込んだフランス人女性

ユージさんとブケ・エミリーさんのツーショット写真

東京電力福島第一原子力発電所が立地する福島県大熊町。2022年には、町の中心部の避難指示が解除され、この春には町立の小中学校が再開。少しずつ人の営みが戻り始めています。その一方でいまだに帰還困難区域が残っているなど、復興は道半ばという現実もあります。その大熊町で「農業をしたい!」と移住したフランス人女性がいます。避難生活が長引き、ここでの農業を諦めた人も少なくない町で、なぜあえて農業に挑戦するのか――。ユージさんが取材しました。

福島県大熊町の風景

大熊町の復興拠点として真新しい町役場庁舎や、新設の教育施設が整備されている大川原地区。県道沿いには、青々とした田んぼも広がっていて、トラクターのエンジン音が響き、人の営みが戻ってきたことが感じられます。昔ながらの里山のような風景の広がる畑を訪ねました。

「やっぱり楽しい。毎日、朝と午後に畑に来ていて、やることいつもいっぱい。でも自然も多くてすごく落ち着く」。流暢な日本語でこう話すのは、2023年2月に大熊町に移住してきたフランス人イラストレーター ブケ・エミリーさん(34)。約1.7ヘクタールの農地を借りて、野菜やハーブなどを栽培しています。中でも一番のお気に入りは、かわいらしい真っ赤な実を実らせたキイチゴ(ラズベリー)です。春先に植えた苗がすくすくと育ち、収穫期を迎えています。「日本では、そんなにキイチゴ(ラズベリー)が食べられていないから、もっと広めたい。収穫したら商品にして販売したいです。観光客の方も買って持って帰り、『大熊のお土産美味しい』と思って、もう一度来てくれたら嬉しい」と抱負を語ります。

笑顔で夢を語るエミリーさん

人懐っこい笑顔で夢を話してくれたエミリーさんですが、つい数年前まで、福島県といえば東日本大震災という印象を抱いており、不安もあったといいます。

フランス北西部のブルターニュ地方に生まれたエミリーさん。日本の漫画を読んでいた兄の影響で興味を持つようになり、旅行で何度か訪れるうち、日本人のボーイフレンドもできました。そして、震災直後である2011年4月から東京での移住生活をスタートさせました。フランス語の語学講師をしながら、大好きな日本の文化に触れる日々でした。しかし、東京での都会暮らしには、疲れてしまったといいます。

「どこに行っても人が多くて、建物も多い。東京の空は狭かった」と振り返ります。いつしか幼い頃から過ごした故郷のような自然豊かな環境と、広い空を探すようになっていました。

転機は2018年。福島市出身の生徒に勧められ、初めて福島を訪れることになりました。会津地方に足を運ぶと、裏磐梯の五色沼や、江戸時代の宿場町の街並みを残す大内宿を巡ったといいます。「やっぱり景色もいいし、人もすごい優しい。空の広さも全然違う」と実感しました。

そして、会津地方の伝統工芸品『赤べこ』の愛らしさにすっかり魅了され、それまで震災のイメージが残っていた福島は、いつの間にか「私の居場所」と表現するほどの場所へと変わっていました。ついには2021年に会津若松市に移住し、イラストレーターの仕事をしながら、その魅力を世界に向けて発信するようになりました。

エミリーさんが描く福島県のイラスト

大熊町のある双葉郡には、会津若松市移住後に初めて訪れ、その自然に圧倒されました。「友達と見に行った浪江、双葉と『富岡夜の森』の桜がすごかったです。その時になぜか農業の夢が出てきました」といいます。

それまで農業の経験がなかったエミリーさんですが、高校進学を考えたときに農業高校を視野に入れた過去があります。「当時は、『農業は大変』と言われて普通の高校に入りました。昔から農業がやりたかったけど、そのきっかけがなかった」と、一度は諦めました。その夢が、故郷フランスから遠く離れた日本の福島で再び芽生え始めたのです。

「いつかここで農業がしてみたい――」。

農作業をするエミリーさん

大熊町に移住しておよそ半年がたちます。新天地での生活をどう感じているのでしょうか。

「住む前は不便かと思ったけど、全然そんなことはなかったです。人が少ないと言われましたが、どこに行っても知っている人ばかりで温かく感じる。都会だったら知っている人に会うチャンスは少ないじゃないですか。本当に自然が多くて落ち着きます」。

そう話すエミリーさんの畑では、野鳥たちの楽しそうな鳴き声が響き渡っていました。

といっても、思い立った当初は原発事故で全町避難を余儀なくされた地域で農業を始めることへ少なからず抵抗があったというエミリーさん。それをどうやって解消したのでしょうか。次週は、大熊町での営農の様子と、エミリーさんの目標について紹介します。

大熊町での生活の様子や、エミリーさんが育てたキイチゴ(ラズベリー)やブラックベリーの生育具合は、エミリーさんのインスタグラムで発信されています。

https://www.instagram.com/melietmalice/

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時10分ごろに放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
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