Hand in Handreport.73

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2024.03.22

「食で地域を支える」 富岡発のラーメンに懸ける鳥藤本店の原点

福島県富岡町にある鳥藤本店の藤田大社長と諸橋沙夏さんのツーショット

福島県に新たな名物ラーメンを作りたい――
納得がいくまで研究を重ね、鶏の旨味を凝縮した一杯の名は「浜鶏(はまど~り)ラーメン」。誕生した場所は、福島第一原発事故で一時全ての町民が避難を余儀なくされた福島県富岡町です。震災からの復興を一杯のラーメンに懸けた道のりを、いわき市出身で女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」のメンバー・諸橋沙夏さんが話を聞きました。

「父親が17歳の時に、卵を産まなくなったニワトリを譲り受けて鶏肉に加工して売っていました。その後、町のお祭りで鶏ガラを使ったラーメンを作ったら大行列になったんです」

そう語るのは福島県富岡町にある「鳥藤本店」の藤田大社長(54)です。「鳥藤本店」は戦後間もない1949年に食堂を開業しました。当時の看板メニューは鶏ガラを使ったラーメンで、地域の人たちに長く親しまれてきました。その後、給食業務を請け負うようになり会社の規模を拡大。震災前は従業員115人を抱える町に根付いた企業に成長しました。

震災前の鳥藤本店の外観
震災前の「鳥藤本店」

しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災と原発事故で「鳥藤本店」は事業継続の危機に陥ります。

「絶望感ですよね。これからどうなるんだろうという不安やマイナスの感情ばかりが心に沸いてきました」

富岡町には当時およそ1万6,000人が暮らしていましたが、政府による避難指示が発令され全ての町民が住んでいた場所を追われました。「鳥藤本店」の従業員たちも全員がバラバラに。会社はどうなっているのか…。生業を失った藤田さんは、震災の2週間後に、たった1人で避難先から故郷に向かいました。そこにあったのは地震で崩れたままの建物や津波に襲われた住宅街など変わり果てた町の姿。胸を締め付けるような光景を目の当たりにしながらも、藤田さんは絶望に打ちひしがれるだけではありませんでした。

震災直後の様子を語る藤田大社長

「避難先に戻る途中に原発事故対応の後方支援をしている事務所に寄ったら、避難所で炊き出しをしてみないかと誘われたんです。もちろん“やる!”と答えました。そして、震災の1か月後から避難所を回り始めたんです」

俺たちは食で地域を支える――
藤田さんは避難所での炊き出しをしながら、「鳥藤本店」の事業再開を目指します。その年、福島第一原発から20キロの距離にあり、原発事故対応の拠点となっていたJヴィレッジ(広野町・楢葉町)で食堂運営を担うことになったのです。会社の原点ともいえる“食堂”からの再スタートです。過酷な現場から帰ってきた作業員たちは、震災前からの顔見知りが多くいましたが、皆一様に険しい表情をしていたそうです。そうした状況の中で、初めて提供したのが「牛丼と豚汁」でした。その時の作業員たちの表情が今でも忘れられないといいます。

感極まった経験について語る藤田大社長

「原発での作業を終えて戻ってきた馴染みの人たちの嬉しそうな表情を見ていると“俺、泣くわ”って、思わず食堂の裏に行ったんですよね。食って大事だと思いましたね」

この時の感極まった経験が藤田さんの原動力になりました。

「鳥藤本店」はその後、2016年に福島第一原発構内でコンビニエンスストアを開店するなど廃炉作業を“食”で支えてきました。その翌年、原発事故による避難指示が一部で解除される方針が決まったことを受けて、藤田さんは新たなチャレンジに乗り出しました。それが「浜鶏(はまど~り)ラーメン」です。

藤田さんの新たなチャレンジとなったはまど~りラーメンの写真

「富岡町が復興の拠点として大型複合施設『さくらモールとみおか』を作り、飲食店を募集していると聞いたんです。鳥藤本店の原点に返って“鶏で始まった会社だから鶏でいこう”と浜鶏ラーメンを作りました。鶏肉を使った鍋を食べたあとのスープでつくった雑炊のような口にくっつくような鶏の旨味。その味を目指したんです」

「鳥藤本店」は開業から約70年の時を経て原点回帰し、ラーメン店「浜鶏」を開店しました。鶏の旨味を凝縮したスープに魚介でアクセントを加えたダブルスープが特徴です。その味を諸橋沙夏さんもいただきました。

はまど~りラーメンと諸橋さんの写真

藤田さん「浜鶏ラーメン、どうでした?」
諸橋さん「本当においしかったです!見た目はあっさりだけど、味がしっかりしていて、男性でも女性でも満足がいく味です。水筒にスープを入れて持ち帰りたい(笑)」
藤田さん「お土産もあるんでぜひ買ってくださいね!」

取材をした日も次々と注文が入った浜鶏ラーメン。地元の人たちだけでなく仕事で富岡町に足を運んだ人たちもその味に舌鼓を打っていました。浜鶏ラーメンには人を惹きつける力があることを裏付ける光景です。福島県には会津に喜多方ラーメン、中通りに白河ラーメンと名物がありますが、浜鶏ラーメンを海沿いの浜通りの名物にしたいと意気込んでいます。

さくらモールとみおかで営業するラーメン店浜鶏の様子
さくらモールとみおかで営業するラーメン店「浜鶏」

苦難で心が折れかかっても、「食で地域を支えたい」という思いを絶やさなかった藤田さん。浜鶏ラーメンは復興に向かう故郷に笑顔の輪を広げています。そして、藤田さんの情熱はラーメンだけにとどまりません。

次回は、富岡町だけではなく浜通り13市町村の未来図を描く藤田さんの思いに迫ります。

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は、平日朝6時から生放送でお届けするラジオ番組「ONE MORNING」内で毎週金曜の朝8時10分ごろに放送。TOKYO FM/JFN36局ネットにてお聴きいただけます。番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
※タイムフリーは、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできる機能です。

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