Hand in Handreport.19

風評の払拭にむけて実際に現地に訪れて見たこと聞いたことを、分かりやすく伝えるレポートです。

インタビュー2020.12.12

『楢葉町の美味しい“季節の実り”を体感!』

全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。
「あれから10年、復興が進む福島を行く」と題して、来年3月に東日本大震災から10年目を迎える福島県の「今」をお伝えしています。

今回は「楢葉町の美味しい“季節の実り”を体感!」。サツマイモやユズを通じて、町の賑わい再生に取り組む人たちの声をお届けします。

楢葉町の地図の画像

福島県楢葉町(ならはまち)は、浜通り地方の南寄り、太平洋に面した町で、木戸川(きどがわ)を遡上するサケや、ユズの栽培が有名で、国内最高水準のサッカートレーニング施設「Jヴィレッジ」のある町としても知られています。

2011年の東日本大震災では、震度6強の揺れに見舞われ、沿岸部には推定10.5mの津波が押し寄せ、甚大な被害を受けました。そして、東京電力福島第一原子力発電所での事故が発生。発電所から概ね20km前後の距離にある楢葉町も大半が警戒区域に指定されました。その後、2015年9月に避難指示が解除。今年の7月には、居住人口が4000人を超え、町に活気が戻ってきています。

今回は、サツマイモの収穫、そしてユズの収穫が最盛期を迎えていた楢葉町を10月下旬に訪ね、町を代表するこの2つの名物を味わってきました。

楢葉町では、耕作放棄地の活用と原発事故により避難した住民の帰還を促すため、大阪に本社がある「白はと食品工業」と共同し、2017年に、サツマイモの試験栽培を開始しました。
2019年には福島県産農産物の風評払拭と、ITを駆使した未来型大型農業の実現を目的に、「白はと食品工業」のグループ会社となる「福島しろはとファーム」が設立されました。1.3haから始まったサツマイモ生産は、今ではその約30倍の約40haとなっています。

海に面した場所には、一面にサツマイモ畑が広がっていますが、そこに建つのが、楢葉町の施設である「楢葉おいも熟成蔵」。 2020年9月に出来たばかりで、国内最大級のさつまいも貯蔵庫です。
まずは、この貯蔵庫の運営を担う現地法人、「福島しろはとファーム」で、生産ほ場を統括する瀧澤芽衣(たきざわ めい)さんにお話を伺いました。

広大な畑を背景に収穫したばかりのサツマイモを両手に満面の笑みを浮かべている瀧澤芽衣さんの写真
福島しろはとファームの外観の写真
収穫コンテナに入れられたたくさんのサツマイモの写真

白はとファーム・瀧澤芽衣さんのお話

Q
たくさんのサツマイモが保存されてますけど、これには何か特別な目的なんかがあるんですか。
A
サツマイモは、小学校とかで芋掘りとかやると、嬉しいからすぐ食べようとするんだけど、家に帰って食べると、「なんか、あんまり美味しくない」というイメージがけっこうあると思うんです。それは、掘りたてのサツマイモはデンプンがまだ糖に変わっていない状態だからで、美味しくないんですよ。外で食べる美味しい焼き芋とかは、3ヶ月以上寝かせたものなんです。
それができる部屋がこの倉庫の中に4つありまして、1部屋で40トン、最大だと48トンぐらいのサツマイモを、1回でその熟成処理ができるような部屋になっています。

瀧澤さんのお話にあったように、サツマイモは収穫したてのものは糖度が低いので、キュアリングといって、収穫時についた傷を癒しつつ、熟成させ、甘さをひきだしてから出荷します。生産からキュアリング、出荷までを一貫して手がけるための拠点施設として誕生したのが、この「楢葉おいも熟成蔵」です。

白はとファーム・瀧澤芽衣さんのお話

Q
白はとファームの貯蔵施設に来ましたが、あまりの規模に、大きな倉庫型店舗にでも来たのかなと思うくらい、すごく大きくてきれいで。本当にしっかり、徹底的に管理されているなという感じがしました。どのくらいの量のサツマイモが保存できるんですか。
A
この貯蔵庫全体でキュアリング室が4部屋、定温貯蔵庫が4つあります。キュアリング室が一部屋48トンなので、全部で192トンのサツマイモのキュアリングが一気にできるような設備になっています。貯蔵庫の方は一部屋315トンなので、4部屋満タンに入れると1,260トンのお芋が貯蔵できるような規模になっています。
私たちが栽培している面積が40haありまして、今やっている面積だけでも、800~1,000トンくらいのサツマイモを採れるようになります。貯蔵庫の中にはだいたい1,500~1,600トンのお芋が貯蔵できるので、「もっと広い面積を作っても大丈夫だよ」というような貯蔵庫の仕組みになっています。
Q
楢葉をサツマイモの産地にするという取り組みは、いつから始まっていたんですか。
A
最初にお話をいただいたのが4年前。2015年に、茨城県で私たちが農業体験型のテーマパークを立ち上げまして。そのお話をつないでくださった方がいるんですが、農業をただ農業としてやるだけではなくて、消費者の方に「安心、安全を自分で体感していただく」ということを具現化しているところに非常に興味を持たれて、「ぜひ、同じような形で福島の楢葉でできないか」ということで、この話をいただきました。
Q
サツマイモを育てる上で気候的に適しているという部分も、楢葉にはあるんですか。
A
そうですね。サツマイモというと、鹿児島とか九州のイメージが強いと思うんですけれども、いま地球温暖化も進んでいて、いろんな農作物への影響が出ていると思うんです。お芋も、もしかしたら、「30年前は、ちょっと福島では無理だったかもしれないな」とは思うんですけれども。今は、お芋も十分に育つような条件が揃っているというのが実証実験でわかりまして、「これはもう、間違いなく作れるな」というのを確認してから、ここに参入させてもらいました。
Q
今日、私たちが取材に来る前に、地元の子供たちも来ていたとおっしゃっていましたが、地元の中学生との交流もあるそうですね。
A
楢葉中学校さんとずっと関わりがありまして、一緒に商品開発をして、東京で販売するイベントをやったり、というような取り組みをさせていただいています。
Q
子供たちも、自分たちが生まれ育った場所のサツマイモだったり、そういうことに触れるってすごくいいことですもんね。
A
そうですね。震災で甚大な被害を受けて、戻ってきてこの地で住んでいても、やっぱり悲しいイメージとか、暗いイメージというのがどうしてもあります。その中で、「自分たちでできることは何か」ということをやったり、一生懸命考えたりしてる子たちがすごくたくさんいるんです。その中で一つの形にして、世の中の大人たちや自分たちと同世代の子たちに発信ができるということに、すごくやりがいとか希望みたいなものを感じてくれる子たちがいて。そういう子たちと会話をしていると、「やっぱりこういう取り組みってすごい大事だな」というのを改めて思わされました。
Q
地元の雇用を生んでいる部分もありますか。
A
やっぱり、仕事がなかなかないとか・・・。1回なくなってしまったものをもう1回作るというのは、非常に大変だというイメージを持たれるんですけども、「そこでいっしょに未来を作っていくことを実感したい」という方たちの雇用というところは、すごくあるかなと思っています。
今は「産地を作る」ということで、「まずは、原料をしっかり作っていく」というところに視点を向けて仕事をさせていただいているんですが、私たちの得意とするところは、やっぱり消費者の方々に自分で体感していただくということ。安全はデータで証明ができるんですけど、安心ってやっぱり人間が感じるものなので、自分で体感しないとなかなか作り出せないものだと思っています。それをお母さんやお子さんという単位で体験していただくと、「なんだ、来てみたら全然大したことないじゃない」とか、「こんなに美味しいんだ!」というのを感じてもらうことで、それかだんだん当たり前になっていくだろうし、そういう体験をもっと早く消費者の方に届けたいなと思っているので、そういう展開も今後考えてます。
Q
その安全の面のデータも何かありますか。
A
私たちは楢葉町さんと一緒にこの事業をやらせていただいているのですが、もちろん検査をした上で、「この土からは、放射能や危ないものは出ないな」というのを検査した状態で、お芋を作らせていただいています。やっぱり、できたものに対して、消費者は一番気になるところだと思うので。これは、初年度からずっとJA福島さくらさんにお願いして検査していただいていて、データをしっかり取った上で「安全だな」というのを証明した上で使わせてもらってます。

福島県による農林水産物のモニタリング検査結果はこちらからご覧になれます。

収穫したばかりの新鮮なサツマイモの写真
高橋麻里江さんが両手にサツマイモを持ち笑顔を浮かべている写真

地元の中学生たちといっしょにオリジナルのスイーツを手がけるというお話もありましたが、美容と健康に良いという、サツマイモ。瀧澤さんのお話を聞きながら、そんなサツマイモの“聖地”として、楢葉町がこれから注目を集めていくんじゃないかと、期待に胸がふくらむ思いがしました。

「福島しろはとファーム」で収穫されたサツマイモは、主に大学芋などに加工されて、「白ハト食品工業」が運営する「らぽっぽファーム」の全国の店舗やオンラインショップで販売されているということです。

今季の2020年は、先行栽培として限られたごくわずかの農家さんによって栽培されています。
今回は、そんな選ばれた農家さんのお一人、福島県南相馬市で50年にわたり農業を営んでいる、寺澤白行(てらさわ しろゆき)さんにお話を伺いました。

つづいての楢葉町の“季節の実り”は、「ユズ」です。
かつて、「ユズ栽培の北限地」とされていた楢葉町。比較的温暖な気候を利用して、実は30年以上前に、町を挙げての栽培が始まったといいます。
「ゆず香る文化の里」をキャッチフレーズに全世帯に苗を配布するなど、町おこしにユズを活用。冬になると、町中いたるところで黄色いユズが実るのが、楢葉町ならではの風景となっていたそうです。

地元の土産品の、お酒やケーキ、アイスクリームなどをはじめ、町のマスコットキャラクターも、顔がユズの「ゆず太郎」というくらいのユズの町、楢葉。

楢葉町のマスコットキャラクター 「ゆず太郎」の画像
楢葉町のマスコットキャラクター 「ゆず太郎」

そんな名物のユズを手掛ける農家で、「楢葉町ユズ研究会」の会長でもある、松本広行(まつもと ひろゆき)さんの農園を訪ねて、お話を伺いました。

ゆずの果樹を背景に、高橋麻里江さんと松本広行さんがにこやかに並んでいる写真
日光を浴び、美しく成長したゆずの実を間近で撮影した写真

ユズ研究会会長・松本広行さんのお話

Q
有名な産地になるほどの楢葉町のユズ栽培は、いつごろから、どんな風に始まったんですか。
A
1986年。「『ゆず香る文化の里』という町を作ろう」ということで部会を作って、いろいろ検討したんです。それで、「町全体をユズにするのであれば」ということで承認を得て、「町全体を黄金のユズ香る町にしよう」と、各家庭に1本ずつ配って、植えてもらったんですね。だいたい2000軒に苗を配って、植えてもらいました。昔から、ユズの木は庭先にけっこうあったんです。当時は、「北限のゆず―楢葉」ということだったんですよ。今は岩手の方までだいぶ北上していますが、その当時は「北限だ」と言ってやってましたね。私は2代目なんですが、このユズの木を植えたのがうちの父親です。当初、ここに100本植えて始まったんです。今も100本くらいあります。
Q
震災の前は、どのくらいの規模でユズを栽培していたんですか。
A
震災前は、だいたい農家が10軒くらいかな。震災で避難して、こっちには来れなくて、畑もそのままになっていたり、放射線の関係でユズの木を切らざるを得なかったりとかで、最終的に残ったのが3軒です。
Q
震災当時、松本さんももちろん避難をされたんですよね。
A
ユズの木は年に2回くらい芽が出るんですが、それが5~6年経ったら、枝というより木になっちゃうんですね。それをこっちに戻ってきてから剪定して、今こんな状態なんですが。町内のみんなは剪定してないからそのまま大きくなっちゃって、今は採れなくなっています。
Q
上の方になっちゃったりしますもんね。
A
そうそう。それにトゲがあるんですよ。
Q
こんなに可愛くてきれいな木なのに!
オレンジ色になったゆずの実と、枝にあるとげを間近で撮影した写真
ゆずの果樹と青空の写真

震災から4年後、町の避難指示が解除になると同時に、松本さんは町に戻り、ユズ栽培を再開しました。でも、畑のユズの木は大きくなりすぎて、手が付けられないような状態で・・・。

ユズ研究会会長・松本広行さんのお話

Q
原発事故の影響もあって、10軒ほどあったユズ農家のほとんどが営農再開を諦めるような状況の中にあって、迷いはなかったんでしょうか。
A
やめようとは思わなかったな。「早く震災前のように戻そう」と。仲間の新妻さんって、研究会の当時の会長の奥さんが、「戻ったら、震災前に作っていたゆず酒をぜひ再開したいんだ」と。それで、「すぐに再開できるように取り組もう」ということで、町の復興と言ったら大げさみたいな感じがするんだけど、「復興の後押しにもなるのかな・・・」と。そんな思いで、ゆず酒を再開することができました。
Q
避難指示が解除されたのは2015年で。そこから先ほどおっしゃっていたゆず酒、「ゆず里愛(ゆず りあい)」というお酒ですけれども、その出荷が始まるまではどのくらいかかりましたか。
A
2年かな。その間に、放射線量の関係で県の方々にもお世話になりながら、とりあえずユズ農家3軒のユズを採集してもらって、線量を2年間測定しました。「20ベクレル以下になったら出荷しよう」ということで、20ベクレル以下になったので、「再開するか」ということになりました。
Q
それだけ時をかけてできた「ゆず里愛」ですが、一本目ができた時はどう感じられましたか。
A
感無量というか、「これが第一歩だな」という感じがしました。「よし、これからまたがんばっていこう」という。こういった震災を経験して、みんな落ち込むような感じがするんだけど、これがあって、また違うものがいっぱい生まれたような感じもするんだよね。やっぱり人と人とのつながりとか。一人では何もできないし、そういうのを感じたね。

さっそく、「ゆず里愛」を飲んでみました。

Q
ああいい香り! いま最高ですよ。ユズ畑のなかでゆず酒「ゆず里愛」。この香りが畑からなのか、お酒からなのか、わからないくらい良い香りです。 いただきます・・・。おいしい! ユズの香が、ほんとうに生のユズを噛んでいるように香りがきて、お酒感はそんなに強くないので飲みやすいですね。これはロックもいいですけど、ソーダ割りもおいしそう。これ。ちょっと浮いているのは果肉ですよね。贅沢!
ゆずで作られたお酒のゆず里愛の瓶の写真
ゆずの果樹園を背景に、高橋麻里江さんと松本広行さんが「ゆず里愛」の瓶とクラスを片手に笑みを浮かべている写真。

楢葉町のゆず酒「ゆず里愛」。ユズの里の愛。ユズの味と香りが濃厚に広がるお酒・・・。今、栽培している農家さんは3軒となってしまいましたが、旬を迎えたユズが収穫され、「ゆず里愛」になります。
「ゆず里愛」は、「道の駅 ならは」など町内の商店を中心に販売中。ぜひ、楢葉町を訪ねて、手にしてください。

楢葉町は、今回紹介したサツマイモ、ユズに加えて、実は魚の鮭も有名な町です。昨年の台風19号により、鮭のやな場に被害を受けましたが、今年も鮭漁を行うことができました。皆さんも、楢葉町で鮭・サツマイモ・ユズを味わってはいかがでしょうか?天神岬(てんじんみさき)には、太平洋が一望できる温泉宿もあります。

全室オーシャンビューの「展望の宿 天神」や源泉100%の天然温泉「天神岬 しおかぜ荘」、オートキャンプ場などさまざまな施設があります。


この取材を収録した「Hand in Hand」は12月12日の朝8時からTOKYO FMでオンエアされました。またオンエア後の放送内容は(http://www.tfm.co.jp/hand)でご覧になれます。

ラジオ放送情報

「Hand in Hand」は8地区(FM北海道/FM仙台/ふくしまFM/TOKYO FM/FM愛知/FM大阪/広島FM/FM福岡)で放送中。
番組を聴き逃した方は、ラジオ番組を無料で聴くことができるアプリ「radiko」のタイムフリーでお楽しみください。
※タイムフリーは、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできる機能です。
※8地区(FM北海道/FM仙台/ふくしまFM/TOKYO FM/FM愛知/FM大阪/広島FM/FM福岡)の放送エリア外からは、radiko.jpプレミアム(有料)でお聴きいただけます。

一覧に戻る
三陸・常磐ものネットワーク

福島産日本酒など福島の
美味しい産品は、
ふくしまプライド便で
購入いただけます。

ふくしまプライド。ふくしまの農林水産物・逸品をご紹介!詳しくは、こちらから

福島の新鮮な野菜や果物は
「JAタウン」から
購入いただけます!

インターネットで産地直送 JAタウン