Hand in Handレポート「福島の故郷で再び始まる酒造り・富岡町と浪江町の物語」

全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。
「あれから10年、復興が進む福島を行く」と題して、2021年3月に東日本大震災から10年目を迎える福島県の「今」をお伝えしています。

今回は「福島の故郷で再び始まる酒造り・富岡町と浪江町の物語」。
福島県の浜通りに位置する富岡町(とみおかまち)と浪江町(なみえまち)は、いずれも、震災後、津波による被害だけでなく、原発事故の影響で全域での避難指示が続きました。
2017年に、それぞれ帰還困難区域の避難指示が一部解除され、住民の帰還が始まりました。帰還した住民の比率は、2020年12月現在、富岡町で2割、浪江町で1割ほどという状況です。

住民の帰還と共に、両町の主な産業である農業も少しずつ再開してきています。
福島県では、県内で生産されたすべての米を対象に、2012年産米から放射性物質の「全量全袋検査」を実施し、その安全性を確認する取り組みを続けてきました。この実績を踏まえ、2020年産米からは、避難指示などがあった富岡町、浪江町を含む12市町村では「全量全袋検査」を継続する一方、県内のそれ以外の地域では「モニタリング(抽出検査)」に移行しています。

お米の検査体制については、「ふくしまの恵み」をご参照ください

そんな地元のお米を使って酒を仕込み、復興の発信につなげているのが、富岡町の「天の希(き)」と浪江町の「磐城壽(いわき ことぶき)」です。

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まずは富岡町の「天の希(き)」。
「天の希」は、富岡町の農家が栽培した県産オリジナル米「天のつぶ」を100%使った純米吟醸酒。富岡町の希望の象徴として命名されたお酒で、2018年に誕生しました。
町の商工会が企画して販売されていますが、これまでの経緯や「天の希」の特徴について、富岡町商工会事務局長の三瓶雅弘(さんぺい まさひろ)さんに、お話を伺いました。

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Hand in Handパーソナリティー高橋万里恵さんと富岡町商工会事務局長の三瓶雅弘さん
● 富岡町商工会事務局長の三瓶雅弘さんのお話
  • 「天の希」が生まれるきっかけを教えてください。

    富岡町は原子力災害によって、一時は全町避難ということになりました。2017年、町の一部は避難指示が解除になったんですけど、今まであった商工業、農業関係、これが壊滅状態で、もう何もなかったんですね。そこから、何か町のシンボルを作った方が良いということで。富岡で米を作ってたものですから「じゃあ、日本酒作ってみるか」っていうことで始まったのがきっかけでございます。

  • 「天のつぶ」を作っている農家さんは、どれくらいいらっしゃいますか?

    いま9軒の農家さんで、少ないです。富岡町の基幹産業が農業でしたので、震災前から比べると本当に少ないです。ただ、一部の方でもこういう形で有志が立ち上がって、農業を行っていただいているのは本当にありがたいと思っております。

  • 「天のつぶ」はお酒をつくるためのお米(酒米)ではないですが、それをお酒にするためにはご苦労があったのではないですか?

    仕込みを依頼した「喜多の華酒造」さんでも初めての経験だということでした。酒米は、ある程度、米を削って酒を作るんですけれども、食用の米だとどうしても割れやすかったり、蒸したりするとベチョベチョになったり、酒米には向かないと言われているんです。幸い、この「天のつぶ」はちょっと酒米に似ているんですね。ある程度削っても、芯が強く残っていて、それでうまくできたんです。

天のつぶについて、詳しくはJAグループのホームページをご覧ください。

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「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」に匹敵するおいしさで、食べ応えのあるしっかりとした食感の「天のつぶ」
  • 『天のつぶ』は、お酒にしても美味しいお米だったんですね。「天の希」ができるまでの背景を知って飲んだ人が、ぜひ富岡町に足を運んでくれるようになるといいなと思います。

    「天の希」を買いに来てもらうのもいいんですけど、ぜひ富岡町を見に来て欲しいですね。復興復旧が進んで、2~3年前から全然変わっていますので、この復旧した今の姿をぜひ見て欲しいですね。

酒米でなく食用米である「天のつぶ」を使って仕込んだ「天の希」。芯が強くて酒米に近い特性があったことで、酒造りにも向いていたという。ラベルにその“富岡産米 天のつぶ 100%使用”と書かれた純米吟醸酒「天の希」。この一本ができたことは、町に帰って暮らしている皆さんはもちろん、いま町を離れて生活している富岡町民の方にとっても、特別な感慨があるのではないでしょうか。

  • 「天の希」のつまみには、何が合うと思いますか?

    福島県の郷土料理で「いかにんじん」というのがあるんですよ。やはり、それは合うかなと。あと、ここは浜なんで魚はなんでも美味しいから、刺身とも合いますよね。常磐もののヒラメ、カツオも有名なんですよ。この辺では、刺身はニンニク醤油で食べます。ビリビリきて旨いんですよ。

福島県富岡町のお酒「天の希」。富岡町内のスーパーやコンビニなどで購入することができます。ぜひ常磐ものの魚と一緒に味わってみてください。

「天の希」販売店舗
※価格:720ml入りで1,650円(税込)(2,000本限定)

【富岡町内】
一般社団法人とみおかぷらす
さくらステーションKINONE(JR富岡駅)
ふたばいんふぉ
・ ヨークベニマル新富岡店(さくらモールとみおか内) 0240-21-3710
・ ローソン富岡小浜店 0240-25-8919
・ ローソン富岡上手岡店 0240-23-6878

【郡山市】
・市の沢小林酒店 024-955-6068

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さて、かわっては浪江町、鈴木酒造店の「磐城壽」です。
鈴木酒造店では、震災前から「磐城壽」を製造していました。しかし、請戸港(うけどこう)のすぐ近くにあった酒蔵は津波ですべてが流され、さらに原発事故の影響で町に戻ることも叶わない状況となりました。そして、山形県米沢市に避難しながら酒造りの場を探していたところ、山形県の工業技術センターの紹介を受け、山形県南部の長井市の酒蔵に移って酒造りを再開。現在も、鈴木酒造店の「長井蔵」として日本酒が造られています。

長井蔵での酒造り再開後、しばらくは山形の米と水を使って酒を仕込んでいましたが、2014年に浪江町内で米の実証栽培が始まると、これを原料に長井蔵で「磐城壽」を造り始めました。
さらに2016年には、浪江の米、水、酵母を使ったお酒、「磐城壽―ランドマーク」の生産も開始しました。過去を踏みしめ、未来への礎となる大きな一歩となるお酒ということで「ランドマーク」と命名したそうです。

そして、2021年。ついに鈴木酒造店の醸造所が浪江町に戻ってきます。
浪江町の復興のシンボルとして2020年8月にプレオープンした「道の駅なみえ」の敷地内「地場産品販売施設」に、鈴木酒造店の新しい醸造所が建設中です。2021年3月に「道の駅なみえ」のグランドオープンと共に開業を予定、いよいよ浪江町での酒造りが再開します。

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道の駅なみえ
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鈴木酒造店の醸造所が入る「地場産品販売施設(2021年3月グランドオープン予定)

鈴木酒造店・代表杜氏の鈴木大介さんは、山形県長井市の蔵で酒造りを続けながらも、浪江での酒蔵の再開を常に思い描いて、この「磐城壽―ランドマーク」を仕込んでいたといいます。ここまでの歩みについて、鈴木大介さんに伺いました。

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鈴木酒造店の磐城壽ランドマークをはじめ豊富な商品を扱う「道の駅なみえ」の産地直売所にて
● 鈴木酒造店 代表杜氏・鈴木大介さんのお話
  • 磐城壽―ランドマークですが、浪江という大地を感じる素敵なラベルですね。大きな自然への思いが伝わってきます。

    ラベル自体は、浪江町の風景っていうのを思い描きながら、浪江の水・光・魚・稲穂・山とか、そういった環境を表すようなラベルにしたいなっていうことで作ったものです。浪江での再開をずっと目指してきたので、浪江町で米ができるようになってから、ずっと造っているお酒です。

  • ここまで漕ぎつけることが、とても大変だったのではないでしょうか。

    特に、被災した直後は、浪江の暮らしがもう全部なくなってしまって。ただ避難している地元の人たちが「酒を造ってくれ」と言ってくれて、私らが事業再開をした地・山形で作った酒も飲んでくれて、みんな本当に喜んでくれたっていうのがあって。避難指示解除後、徐々に浪江に人が戻って、生活の場ができてきて、お酒がそこに入ってくれば。震災の前の人の暮らしぶりっていうのを、自分たちがお酒を造ることで、浪江のものづくりを発信できるんじゃないかと、それだけを思ってずっとやってきたんですけども。

  • 水が美味しいことで知られる長井市。地域循環型社会についての先進的な取り組みも続けてきているところと聞いていますが、影響されたことなどありますか。

    長井市では、市内で出た生ゴミを集積して、それを発酵させて肥料にします。それで一次産品を作りながら、循環型社会を目指すという、日本で最初の取り組みがあったんですね。そういった中で自分たちも刺激を受けて、なんとか、そういったことを自分たちでできないかということで、酒粕でやり始めました。酒粕を発酵させて肥料にして、原材料の米を再生産しようとか、浪江町の作付けの米でも、その酒粕の肥料を一部の田んぼに入れて試験的にやったりとか。だから、こちらの施設で作るお酒は、浪江のパイロット商品。浪江のものを引っ張っていくような、日本国内で戦えるだけじゃなくて、世界に出しても恥じることない品質のものを作っていきたいと思っています。

  • そして、いよいよ浪江町での酒造りを再開されるわけですが、浪江では昔から、お酒は無くてはならない存在だそうですね。

    浪江町には、私のところ以外にも2軒酒蔵があって。ちっちゃな町ですけど、酒蔵が3つある町って、県内にもあまりないんですよね。うちは港町のお酒ですので、漁師さんたちが縁起担ぎで船を清めたり、海を清めたり。かつては大漁祝いのご祝儀がお酒で、漁師さん同士が挨拶で、「魚獲れたか?」じゃなくて「お酒になったか?」っていう挨拶を交わしてました。今は、漁の方もなかなか制限がありますので、まだまだ自由にならないところはありますけど。自分たちがお酒を作って、震災前のように、「お酒になったか」っていう挨拶、変わらない習慣が戻って来ればいいなと思ってます。

  • 「道の駅なみえ」の地場産品販売施設にできる酒蔵では、観光等で来た方が酒造りの現場を見学できると伺いました。

    そうですね、ガラス張りになっているので見学いただけます。窓ガラスになってないところも、100インチモニターで全ての工程を見ることができます。それと浪江には「大堀相馬焼(おおぼり そうまやき)」という器があって、施設では製陶体験もできるんです。その器で食事とお酒が楽しめるということで、なかなか他の道の駅にはない施設になると思います。

鈴木さんは、「浪江町に戻り、世界に出しても胸を張れる酒を造るだけでなく、山形で学んだ循環型の生産サイクルを浪江でも実践し、「浪江のパイロット商品」となる酒を造っていきたい。福島県では国の基準よりもさらに厳しい基準を設けて米を生産し、安心安全に関しては自信を持っているので、風評被害を気にすることなく、地道に美味い酒を造って、魅力を発信していきたい」、と熱く語ってくださいました。

鈴木酒造店は、地元・浪江での酒造りが再開され、福島の漁業も2021年度から、試験操業から本格操業になると言われています。「お酒になったか?」という港町の挨拶が再び交わされる日ももうすぐです。

福島県は、明治時代から続く全国新酒鑑評会で「7年連続・金賞受賞数日本一」という記録を更新中です。皆さんがお好みのお酒をぜひとも探して味わってみてください。

今回ご紹介した富岡町、浪江町も、着実に復興が進んでおり、新規オープンした商業施設や宿泊施設、飲食店もあります。是非チェックしてみてください。

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リモートライブで福島の酒蔵を応援しようというイベント「第2回福島酒援ライブ」が、2021年2月27日(土)に開催されます。チケットを購入すると磐城壽をはじめ県内55酒蔵からセレクトされた逸品がご自宅に届き、ライブを見ながら日本酒も楽しめる企画です。購入者全員に福島醤油漬「希望のごぼう」1袋もプレゼントされます。あのデーモン閣下がスペシャルゲストとして出演されます。是非、イベントの特設サイトをチェックしてみてください!